伝統と革新がひとつに溶け合って

「高岡銅器」発祥の地・金屋町。千本格子の家並みと、ところどころに銅板が埋め込まれた石畳が美しい

「利長は城下殖産のために7人の鋳物師を招へいし、この金屋町に鋳物場を開設させたんですって」。千本格子の家並みが美しい高岡銅器発祥の地・金屋町を散策しながら、友人はパンフレットでにわか勉強だ。「実際に作っている現場を見たいんだけど、どうしよう?」「大丈夫、助っ人を頼んだから」と私。高岡市出身で、地場産業の活性化に取り組んでいる女性を紹介してもらったのだ。「高岡銅器は400年の歴史がある伝統産業。以前は仏具がメインだったけど、最近はオリジナル商品の開発にもチャレンジしているの。若手の後継者たちはみんなやる気満々」と助っ人女子。彼女の車で案内してもらった。

溶かした金属を鋳型に流し込み、品物を作り出す鋳造の技術。高岡鋳物の伝統は前田利長の昔から400年の歴史を誇る。現在でも、錫や真鍮、アルミなど、素材の特性を生かした新しい商品が開発され、鋳造の可能性はさらに広がっている。伝統の技法に新しいデザインを取り込む試みは螺鈿細工の世界でも積極的だ
鋳型を作る。金属を注ぐ。研磨する。人の手を経て出来上がったものには、作り手の想いが込められている。今回、見学させていただいた高岡の作り手のみなさんに感謝

 最初は能作さんへ。伊勢丹のシャンデリアを手がけた会社だ。「私たちは小売りではなくメーカーですから、ひたすら技術を磨いてきました。その技術力が注目されたことで、新しい試みにチャレンジできるようになったんです」と能作克治社長。オリジナルデザインのベルはニューヨーク近代美術館(MoMA)のショップでも販売されている。錫100%のテーブルウェアは全国的にも有名だ。続いて伊勢丹のドア飾りを手がけた高田製作所さん。常務の高田晃一さんが目指すのは「作り手と使い手、お互いの顔が見えるものづくり」。「誰のためのデザインなのか、そこが大切」と言う。アルミのアイスクリームスプーン「15.0%」シリーズはグッドデザイン賞を受賞している。錫のアクセサリースタンドも人気だ。シマタニ昇龍工房さんは読経にかかせない鏧子づくり百余年。4代目好徳さんは鏧子を金槌でたたいて調音する職人技の持ち主だ。好徳さんが手がけた「すずがみ」はクラフトファンの注目を集めている。

左:現在でも仏具づくりは大切な仕事だ。鏧子はひとつひとつすべて手作業で作られる
右:自由な形に折り曲げられる錫の特性を生かした「すずがみ」。金槌で表面に文様を刻む

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photo:Atsushi Hashimoto / Mami Yamada
illustration:Megumi Asakura
text:CREA Traveller
produced:Sachiko Seki
cooperation:Toyama-ken / Toyama-shi / Takaoka-shi / Nanto-shi