デビュー曲ではないけれど個性が際立った名曲

●中谷美紀「砂の果実」

 中谷美紀の、感情あまり乗せない歌い方と、坂本龍一の哀しいメロディが、染みる。心の琴線とはこんな音じゃないかしらと思う。

 初めて聴いたときは、あまりに繊細な世界観に落ち込んだ。が、不思議な中毒状態に陥り、結局CDショップに走った思い出が。

●宮沢りえ「赤い花」

 コムロプロデュースの「夢」を強く押し出した他の楽曲もいいが、異国情緒溢れるメロディと、童謡のような歌詞のこの曲が、シングルの中で一番宮沢りえのキュートさを引き出したんじゃないかと思っている。天女顔なので、東洋系の音楽を歌うと神々しい。

●菅野美穂「あの娘じゃない」

 カンノちゃんの声は唯一無二。特にこの曲は、あのちょっと鼻づまりの、低いとも高いとも言えない声で、ていねいに歌う感じが悶えるほど堪能できる。

 けっして音域が広そうではないのだが、音符の上に言葉をキチンキチンと置くように歌う。この気持ち良さよ!

●安達祐実「風の中のダンス」

 90年代伝説のドラマ「家なき子2」の挿入歌。作詞・作曲大貫妙子、編曲千住明。彼女が13歳のときの楽曲で、幼い声でぽつり、ぽつりと歌う感じは、大人を食うようなドラマの演技とは違った、頼りない、心細さが溢れ出て切ない。

●竹内結子「ただ風は吹くから」

 透明感、という言葉をそのまま楽曲にしたような、竹内結子さん唯一のシングル。爽やかな歌声と、寄り添ってくれるような歌詞がリンクし、やさしいやさしい世界が広がる。

 映画『インサイドヘッド』のヨロコビ役の吹き替えも「気持ちのいい明るい声! 誰?」と思ったら竹内結子さんだった。

 彼女の声は本当にやわらかく、風のように心地いい。


 90年代の音楽は、懐かしさと同時に、今聴いても謎の新しさがあるワンダーゾーン。

 時代のヒロインたちは、歌詞とセリフに演技力を乗せ、キラキラと輝く「一生青春ワールド」に連れて行ってくれる。昔も、今も。

 ありがとう、ありがとう!

田中 稲(たなか いね)

大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/

Column

田中稲の勝手に再ブーム

80~90年代というエンタメの黄金時代、ピカピカに輝いていた、あの人、あのドラマ、あのマンガ。これらを青春の思い出で終わらせていませんか? いえいえ、実はまだそのブームは「夢の途中」! 時の流れを味方につけ、新しい魅力を備えた熟成エンタを勝手にロックオンし、紹介します。

2020.10.10(土)
文=田中 稲