新御三家の「恋が下手なセンパイ」感

郷ひろみの「哀愁ヒーロー Part1・Part2」。髪型、ポーズ、スタイリングのすべてが、マイケル・ジャクソン『スリラー』のジャケットからの影響を感じさせるが、実はこのシングル、『スリラー』より1年以上前の1981年11月にリリースされている。

 ヒデキを語るならば、新御三家仲間の郷ひろみと野口五郎も語らねばなるまい。ヒロミと五郎の世界観もヒデキに負けないほど厄介である。

 誘惑にフラフラ乗る遊び上手だが、本命には「言えないよ好きだなんて」状態のヒロミ。

 元カノを忘れられず、改札口近くの喫茶店で張り込み、19時まで粘る五郎。

 揃いも揃って背中を叩きたくなる恋愛ベタである。だが、それがいい。それが萌える!

野口五郎「私鉄沿線」の作曲を手がけているのは、五郎の実兄である佐藤寛。

 この七転八倒こそ、新御三家が放つアイドル歌謡の愛しさだと思うのだ。

 「もっといい人が現れるって」と上から目線でアドバイスをくれる友人ではなく、「お前はまだいいよ! 俺の恋なんてサ、もう思い出しても涙出るわ……」と、自らとんでもない木っ端みじんな失恋話を披露し一緒に泣いてくれる、そんな情の厚い先輩みたいな感じである。だからこそ沁みるのだ。

 三人はそれぞれの個性を活かし全く違うアプローチで、しかも超カッコいいパフォーマンスで空回りラブを肯定してくれる。恋する人はみんなヘン。だから存分にのたうち回っていいんだよ、どんな恋でも恋は恋だと!

2017.10.17(火)
文=田中 稲
写真=文藝春秋