マザラ・デル・ヴァッロの
キッチンから!

シチリア西岸の郷土料理、魚介のクスクス。

 地方ごとに郷土色が色濃く残るイタリアでは、訪れる先々で、その土地でしか食べられない地元食材や郷土料理に出会えるのが魅力のひとつ。

 ピエモンテ料理、トスカーナ料理、プーリア料理、さらには街ごとに細分され、ローマ料理やミラノ料理、パレルモ料理などなど、実際のところ「イタリアにイタリア料理はない」と言われるほど、個性的な郷土料理が各地に存在しています。

白砂のビーチが続く美しいマザラ・デル・ヴァッロの海。水平線の向こうにはアフリカ大陸が。沖合では、海底に眠る紀元前のブロンズ製「踊るサテュロス像」が漁師によって発見されたことも。

 イタリア最南端の州であるシチリアは、地中海のほぼ真ん中に浮かぶ島。古代ギリシャ、アラブ、スペインなど列強国の支配を受けつつ、約3000年にわたって東西文化の交流地点として栄えてきた歴史があります。

 長く複雑な歴史に育まれた、豊かな食文化が宿るこの島の郷土料理のバリエーションは、イタリアのなかでも圧倒的。島の西側、東側、また内陸部、そしてそれぞれの街ごとにも独特な郷土料理が見つかります。

マザラ・デル・ヴァッロのビーチにたたずむサン・ヴィート・ア・マーレ教会。波打ち際という珍しい立地で、海に向かって開かれた扉が、地中海を渡ってやってくる人々を受け入れてきたシチリアらしく印象的。

 今回ご紹介するクスクスは、シチリア西岸の名物料理のひとつ。クスクスと言えば、北アフリカが発祥だけに、チュニジアやモロッコなどの郷土料理のほか、フランスの「タブレ」などが思い浮かびますが、アフリカ大陸まで直線距離でたったの150キロしか離れていないシチリア最西端の街マルサラを中心に、マザラ・デル・ヴァッロやトラパ二などシチリア西岸の街々でも郷土料理としてしっかり根付いています。

 今回は、街の中心にアラブ人街「カスバ」が残るマザラ・デル・ヴァッロで、バカンス中のマンマ宅に“突撃!隣の昼ごはん”。代々ご家庭に受け継がれてきた伝統の「クスクス」レシピを教えていただきました!

今回のレシピを紹介してくれたエンツァさん。ふだんは街の中心で暮らしていますが、夏季(6~9月)になると街はずれにある海辺の別荘に移住。シチリアでは、街中と海辺の両方に家をもち、季節ごとに行き来する家庭も多い。

 教えてくださったマンマは、この街ご出身のエンツァ・カーラミアさん。親戚や友人たちが集まるときには必ず作る料理だそうで、日本的なポジションでいえば「ちらし寿司」といったところでしょうか!? お米を研ぐように手早く作る様子には、いかにも慣れ親しんできた家庭料理の風情が漂います。では、アフリカ大陸が見えそうな海辺の別荘のキッチンから……シチリアン・マンマの本場のレシピをお届けします!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子