本場パレルモには「アランチーニの日」もある
伝統のストリートフード

シチリア西岸のコロンと丸い「アランチーナ」。定番具材のミートソースを具にしたものがこのカタチ。

 ゴハンに具を詰めてカラリと揚げた「アランチーニ」。シチリアの郷土料理として知られるこのライスコロッケは、本場では呼び名が微妙に異なり、カターニャを拠点とする東岸では「アランチーノ(男性形)」、州都パレルモのある西岸では「アランチーナ(女性形)」と呼ばれます。語尾の一文字くらいささいなこと……ですが、単語に女性形・男性形・単数・複数があり、語尾が変化するイタリア語では、由々しき問題!? しばしば論争も起こります。

シチリア東岸では、円錐形で「アランチーノ」と呼ぶ。

 パレルモ大学の言語学者ジョバンニ・ルフィ―ノ教授によれば、そもそも小さいオレンジ(イタリア語でアランチーナ)を模した料理だから、言語学的には西岸の女性形が正解。しかし、伝統言語であるシチリア語では、フルーツの名称はほとんどが男性形となるため、シチリア語→イタリア語をシンプルに変換すると、男性形にもなる……。ということで、両者一歩も譲らず。決着がつきません。

 とりあえず、シチリアを旅行する際には、東岸では男性形、西岸では女性形で発音しないとお店で通じない、とだけ覚えておくのがおススメです(笑)。ちなみに、「アランチーニ」は男性複数形。日本ではなぜこう呼ばれるのかは不明です。

 さて、そんなアランチーナ(わたしはただ今、パレルモにいますので、女性形で)。パレルモでは日常的に食べられていますが、特に12月13日の「サンタ・ルチアの日」には、伝統的に食べる習慣があります。

シチリア西岸では、もう一つの定番具材ハム&モッツァレッラは、真ん丸ではなく俵型と決まっている。意外と保守的。

 それは、飢饉のあった1646年。サンタ・ルチアの日に小麦を満載した船が港に到着し、人々を飢餓から救ったというキリスト教的奇跡伝説から生まれたと言われています。この日は、改めて小麦のありがたさを再認識する日でもあり、パレルモではパンやパスタは食べず、お米をいただきます。そしてパレルモでお米と言えば、アランチーナ。というわけで、サンタ・ルチアの日は、「アランチーナの日」でもあるのです。

 サンタ・ルチアといえば、シラクーサの守護聖人。本家シラクーサを含めシチリア全土では、「クッチア」という麦で作る伝統菓子を食べるのが習慣なのに、なぜかパレルモでは、クッチアにプラスしてアランチーナも……。日本におけるバレンタイン=チョコレートに似た、何か商業的な匂いを感じなくもないですが、この日は、店頭で大量にさばけるのはもちろん、伝統的な家庭では自家製アランチーナを大量に作ってお祝いをします。

 作ってみると意外と簡単なアランチーナ。工夫次第でお弁当やパーティ料理にもなりそうな、本場のアランチーナレシピを次ページでご紹介しましょう!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子