ゲーテが訪れた聖なる山の
頂に立つ洞窟教会
――巨大な岩の塊であるモンテ・ペレグリノは高いというよりむしろ幅が広く、パレルモ湾の北西端に横たわっている。その端麗な容姿はとうてい言葉では言い表し得ない。
~ゲーテ『イタリア紀行』(相良守峯訳/岩波文庫)~
かつてゲーテが訪れ、名著『イタリア紀行』にも記述されているモンテ・ペレグリーノ。巡礼の山、聖なる山とも訳されるこの山は、古代から聖地として地元の人々に崇められてきました。頂上には、パレルモの守護聖女サンタ・ロザリアを祀る洞窟教会があり、今もなお厚い信仰の対象となっています。
1787年4月6日のゲーテの日記は、こう続きます。
「前世紀の初めに、この山のある洞窟の中においてこの聖女の遺骨が発見され、それがパレルモへ持ってこられた。そのために町はペスト病の流行から救われたので、それ以来、ロザリアはこの土地の人の守護聖女となったのである」
聖女ロザリアは、1130年パレルモで貴族の娘として生まれた後、13~15歳頃に許嫁との結婚から逃れて隠匿生活に入り、1170年9月4日にモンテ・ペレグリーノの洞窟で亡くなったと言われています。
ゲーテが述べたように、1624年7月15日にマリアのお告げによって洞窟から遺骨が発掘され、翌年には、ペストで家族を失い自殺を図った男性の前にロザリア本人が現れ、パレルモの人々への信仰を説き、ペストが治まったという伝説が残されています。
美しい少女として現れ、街を救ったサンタ・ロザリア。洞窟をそのまま利用した教会内部には、トレードマークのバラの冠を載せた可憐な像が置かれていますが、なかでも中央祭壇に置かれた金の像は、ゲーテも絶賛。
「美しい婦人像を見た」と始まる日記に、「白大理石の頭と手とはあまり高雅な様式だとは私は思わないが、それでもいかにも自然に好ましくできているので、今にも息をついて動き出すに違いないと思われるほどである。彼女のそばには小さな天使が立っていて、百合の葉で彼女に涼風を吹き送っている様子である」と綴られた通り、今も美しい姿で横たわっています。
聖女サンタ・ロザリアの伝説は、「聖地あるある系」とはいえ、日付まで伝承されているあたり、かなり信憑性が高いような気がしないでもありませんが、まあ、信じるものは救われる……ようで、この洞窟に湧く水を飲み、病気や怪我が治ったというミラクルも多く語り継がれています。
文・撮影=岩田デノーラ砂和子