パレルモで半世紀を生きた
日本初の女性西洋画家
ラグーザお玉という人をご存じでしょうか? 日本のテレビでも取り上げられたことがあるので「知ってる!」という人も多いかもしれません。
本名は、清原玉もしくはエレオノーラ・ラグーザ。明治政府に招聘され、日本に西欧美術を伝えた偉大なる彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザの妻であり、日本初の女性西洋画家。激動の1882年から51年もの間、夫の生地パレルモに留まり、ヨーロッパの画壇を舞台に活躍した女性です。
さて、そんなお玉さんの回顧展『お玉とヴィンチェンツォ・ラグーザ、東京とパレルモを結ぶ橋』が、2017年5月12日よりパレルモのサン・テリア宮殿にて開催中です!
キュレーターは、ANISA(国立美術史教員協会)の副理事も務める美術史家で建築家、そしてお玉研究の第一人者としても知られるマリア・アントニエッタ・スパダーロ教授。約20年かけて研究・収集した膨大な作品を一挙に展示するイタリア初の大規模な回顧展として、現地で大きな注目を集めています。
「1990年代の初めに、パレルモのとあるアパルタメントで彼女の作品を偶然発見して以来、研究を続けてきました。お玉が手がけた作品は、絵画のみならず、天井画や壁画など室内装飾もあり、いかに彼女がパレルモで活躍していたかをうかがい知ることができます。が、残念ながら壊されたり劣化したり、失われてしまったものが多いのも事実。作品の価値を再認識し、後進の育成にも大きく影響を与えたお玉の業績を、もっと多くの人が知るべきなのです」
今回の回顧展では、渡伊以前から晩年までの作品を、日本画から西洋画への変遷、自然への関心、ルネッサンス絵画の影響……など、12のテーマに分類して展示。ロマン主義的自然派のテクニックを用いながらも、日本画的構図や日本工芸さながらの緻密な筆致がオリエンタルムードを醸す作品から、1700年代のイタリア絵画の影響を受けた宗教画まで、マテリアル・テーマ共に、実に多彩な作品が並んでいます。
開国の扉が開かれ、押し寄せる西欧化の荒波に乗ってシチリアまでたどり着いた一人の日本女性が生きた証。ドラスティックな異文化の洗礼を受け、新しい技術をスポンジのように享受し結晶させた作品には、制作への情熱はもちろん、忘れることのない望郷の念に折り合いをつけ、遠い異国で生きる諦観と潔さも垣間見えます。テクニカルな側面のみならず、お玉さんの生き様もまた、同じ日本人にとっては大変興味深いものでしょう。
次ページでは、お玉さんの経歴と代表的な作品をご紹介します。
文・撮影=岩田デノーラ砂和子