めくるめくマヨリカ焼きの世界へ、ようこそ!
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パレルモのディープな旧市街にある知る人ぞ知るマヨリカ焼き美術館「スタンツェ・アル・ジェニオ」。マヨリカ焼き床タイルの世界的コレクターのオーナーが、自宅を一般開放したプライベート美術館で、館内には「あっ!」と驚くマヨリカ焼きの世界が広がっています。
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イタリアの伝統陶器として知られるマヨリカ焼き。その起源を遡るとシチリアに行きつきます。先史時代から焼き物が生産されていたシチリアの街々に、その技術が伝わったのが約1000年前。そこから独自の発展を遂げ、イタリア全土に広がっていったと言われています。
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右:1500~1600年頃のパレルモで生産された床タイルを展示したダイニングルーム。
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15世紀頃から、本場シチリアやナポリでは床を飾るタイルとして多用されてきたマヨリカ焼き。スタンツェ・アル・ジェニオでは、15~19世紀の貴族の館や教会で実際に使用されていたオリジナルのみを展示していますが、その数なんと約5000枚! 思わず「壁は大丈夫か!?」と心配になるほどの枚数が四方を埋め尽くしまくっています。
オーナーのピオ氏は、代々絵画や骨董などをコレクションするコレクター・ファミリーのご出身で、床タイルのめくるめく色彩とデザインの美しさに惹かれて収集を始めたのは、12歳の頃だそう。中学生が床タイルを集める姿はなかなか想像が難しいところですが、これもDNAのなせるわざでしょうか。伝統的かつ西洋的なコレクション手法に則り、正規ルートから(つまり盗品やレプリカではない)、入手した鑑定品のみ集め、各タイルの経歴(出自)をすべて記録しているとのこと。
緻密! いや、これが生粋のコレクターというものなのでしょう。
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カルタジローネ、パレルモ、ブルジョ、サント・ステファノ・ディ・カマストラ、そしてナポリ。かつて世界を支配したスペイン王国時代のマヨリカ焼き名産地で生産された床タイルの芸術性は高く、華やかな色遣いはもちろん、秀逸なデザインに目が奪われます。職人の息遣いさえ聞こえてきそうな筆致が顕著に残る作品には、どれ一つとして同じものが見当たりません。
文・撮影=岩田デノーラ砂和子