江戸時代から続く環境にやさしいライフスタイル

 興味深いのは、どの家にも敷地内に水路が設けられ、外から水が引き込まれていることだ。かつてはその水で洗い物をし、流れていく残飯は池で飼う鯉が食べていたという。水路や池では非常時のタンパク源となる鯉を飼い、庭には栗や柿のように実のなる木を植える。それは質素倹約を説いて藩の財政を立て直した米沢藩主・上杉鷹山の教えだ。

丸大扇屋の外観。店の前の道は宮舟着場から真っすぐに延びるかつてのメインストリート。荷車が行き交っていたという。【問い合わせ先】丸大扇屋・長沼孝三彫塑館 電話番号 0238-88-4151

 水が流れる炊事場がどういうものだったのか、実際に見てみたい。今度は小出地区から宮地区に向かった。目指すは十日町通りにある丸大扇屋・長沼孝三彫塑館。丸大扇屋は300年前から長井で呉服商を営んできた商家。ここで生まれ、彫刻家として東京で活躍した故・長沼孝三氏が、幕末、明治、大正の暮らしぶりを今に伝えるものとして生家を市に寄贈し、一般に公開されている。

母屋の奥には彫刻家・長沼孝三氏の作品を展示した彫塑館がある。
蔵のある庭では春もみじと満開の桜が目を楽しませる。
左:丸大扇屋に残る「入れかわど」。外から引き込んだ清涼な水が流れている。
右:アトリエ・ギャラリー「Cielo」を営む漆工芸作家・江口達哉さんの作品。古い漆器の修繕も手がける。【問い合わせ先】シエロ 電話番号 0238-88-2148

 かまどが据えられた台所の一角に川の水を引き込んだ洗い場があった。「入れかわど」というのだそうだ。洗い物をした水は母屋の外に出て、庭の池に流れ込む。そこには今でも大きな鯉が飼われていた。環境にやさしい循環型のライフスタイル。長井の人たちは江戸の昔から自然とそれを実践していたのだ。

 水のまち・長井。表通りを一本入ると、まちの中を縦横に川が流れている。水路を辿っていくと、清流の中で鮮やかな緑の藻が揺れているのが見える。「梅花藻」だ。初夏から初秋にかけて白く可愛い花をつけるという。それを眺めながら、川辺を散策するのも楽しいに違いない。初夏の長井をもう一度訪ねてみようと思った。

【問い合わせ先】
長井市観光協会

電話番号 0238-88-5279

長井市観光ポータルサイト
http://www.kankou-nagai.jp/

Feature

水と緑と花のまち「山形県長井市」

Photo=Keiji Ishikawa、Yuki Funayama、Nagai City