ナポレオンを生んだワイン銘醸地の島 コルシカが育む珠玉の一本を選ぶには？

有機栽培ブドウから造られる素晴らしいワイン

左：ワイナリー名の由来は、コルシカ語によるこの地の名前から。
右：現当主のセバスチャン・ポリー氏。フランスの南西地方にあるカオールやニュージーランドのマルボロでワイン造りを学んだ。

 アジャクシオ市内から車で約1時間、緑溢れる静かな小村セラ・ディ・フェロに有機栽培ブドウから品質のよいワインを造る家族経営の小さな造り手「ドメーヌ・ウ・スティリチオヌ(Domaine U Stiliccionu)」があります。収穫時には数名のサポート要員が入りますが、基本的にはブドウ栽培から醸造、ボトリング、ラベル貼りまでそのほとんどの仕事を現当主のセバスチャン・ポリーさんが担っています。

 大手のワイナリーでは、自分たちが育てるブドウではまかなえずブドウを買い付けることもあり、作業は分業になることが多いもの。でも、セバスチャンさんは所有する畑すべて自分の目で確認し、自分自身が育てた有機栽培ブドウでのワイン造りまで一貫して行っています。そして、EUからワイン醸造に対する厳しい基準で造られた「ビオワイン認定」も得ています。

斜面に植えられた赤ワイン用ブドウ品種の「シャカレロ」。

 化学肥料や除草剤、農薬や殺虫剤を使用せず、家畜の糞の堆肥などを使用してブドウを栽培する有機農法のブドウから造られるワインは、日本でも注目されています。「有機栽培をすることで土中の微生物が増え、土が活性化することにより、ブドウ栽培によい土壌になる」とわかってはいても、それを実践するのは容易なことではありません。ドメーヌ・ウ・スティリチオヌも、手数のかかる管理を徹底して行うため、7ヘクタールあった畑を5ヘクタールに縮小したのだそうです。

 さらにこちらでは、2008年から「ビオディナミ(バイオダイナミクス)」という独特の栽培手法を実践しています。哲学者ルドルフ・シュタイナーが提唱した農薬や化学肥料を使用しない有機農法の一種ですが、自然の生命力を高めるというアプローチを徹底するものです。例えば、土の活性化のためと水晶の粉を撒いたり、月の暦に合わせて農作業の日程を決めるなど、神秘を感じる手法でもあります。ビオディナミ農法の厳しい基準をクリアして認められるデメテル・ラベルも取得しています。

ワイナリー付近に自生するフレンチラヴェンダー。彼の畑の周りは野菜畑、果樹園、そして自然の花々に囲まれている。

 コルシカならではのワインを選ぶときに注目したいのが、赤ワイン用のブドウ品種「シャカレロ（Sciacarello）」。日本語では「スキアカレロ」と紹介されることが多いこの品種、コルシカでは「シャカレロ」と発音します。一般的に赤ワイン用ブドウ品種として有名なのはフランス本土のみならず、チリやカリフォルニアなどでも栽培されている「カベルネ・ソーヴィニヨン」や「ピノ・ノワール」ですが、この「シャカレロ」はコルシカの土着品種。この地ならではの品種はぜひ、飲んでみたいものです。

 この、シャカレロブドウ品種100％の「アンティカ」をご紹介しましょう。

左：シャカレロ100％を使用。自生酵母で発酵させ清澄剤も一切使用せずに造られた「Cuvée Antiica 2014(キュヴェ・アンティカ 2014)」。
右：コルク上部にはワイナリーのイラストが刻印されている。

 「アンティカ」の色はとてもキレイなルビー色で、木イチゴやアーモンドの香りが漂ってきます。ジューシーで果実味があり、ほどよい渋味が心地よい本当にピュアな印象で、シャカレロの特徴がとてもよく出ている赤ワインです。嬉しいことに、この造り手のワインの輸入が2016年6月から日本で始まりました。大自然に育まれた神秘のワインをぜひ皆さんにも味わっていただきたいです。

左：当主の奥様は日本人。まさ美さんは現在お二人のお子さんの子育て中。ワイナリーから数分のところに飼っているロバに餌を与えに行く途中。
右：ロバを調教中。いずれブドウ畑の土を耕すのに活躍してほしいそう。