作家の意思を尊重した制作フロー。
求められる喜びで、制作動機が変化する作家も。
近年は、作家個人に依頼が届くことも増えている。障害のある作家のアートの分野では、作家本人の作品が利用されることや、売上が十分に還元されないことが課題として指摘されてきた。ヘラルボニーでは、商用展開に先立って作家へのアプローチと説明を行い意思を確認した上で進めるとともに、作品を知的財産として扱い、企業等とのライセンス契約を通じてロイヤリティを還元する仕組みを構築している。「作者の理解や同意をしっかりと反映することによって、実現しなかったプロジェクトがいくつもある」と板垣さん。また、作家に適切なリードタイムを確保できないなど、当初に定めた原則を守れないと判断した案件については、受託しない方針を取っている。
作家の企業案件の制作フローについて、小林覚さんが取り組んだ企業パッケージの案件を例に話を聞いた。るんびにい美術館に在籍する小林さんは、文字を独特のフォルムに変形させるスタイルで作品を作る。そのユニークな作風から企業からの依頼も多い。
まず、依頼主の現場理解を深めるために工場・製造工程などを見学し、製品と文脈を把握する。その上で、作家と担当者が顔を合わせて、相互理解を深める。小林さんの特性を鑑み、“企業”という抽象的な対象をイメージしづらいのではないかという配慮で、“目の前のこの人に協力したいか”を考え、納得して答えを出せるフローで進行したという。
小林さんは、作品が多くの人の目に触れたことで、誰かのために作る喜びを得たそうだ。今では、依頼を受けた際にのみ、作品に取り組むマイペースなスタンスをとっている。板垣さんは、「小林さんは筆が早く、多くの作品が30分から1時間で完成する。今や職人です」と話す。
アトリエでは、作家が作品の制作に打ち込めるような環境の整備にも力を入れている。作家が“何を表現しても受け入れられる”と安心・信頼感を持って、自らの内面世界を探索できる環境を守っているという。また、作家個人の表現特性に応じて、道具や画材を提案・用意をいとわないことでも、作品作りを全面的にサポートする。
――ツアーを通じて、コラボ端末“Google Pixel 10a Isai Blue”の誕生秘話とヘラルボニーの取り組み、そして作家たちの創作環境が紹介された。アートとテクノロジーという異なる領域を歩んできた両社だが、その根底には“一人ひとりの可能性に寄り添い、エンパワメントする”という共通の思想があった。その価値観を形にしたプロダクト、“Isai Blue”は現在、全国で販売中だ。
