30歳、同い年の作り手として。ふたりの目に映るもの

――おふたりは30歳を迎えた同い年です。現場ではどんなお話をしましたか?

井之脇 お話……。撮影は3日間だったのですが、映画館のスクリーン越しに対話する構造上、別撮りのシーンも多くて。

伊藤 でもお互い、相手側の撮影にお付き合いで参加したりしましたね。特に撮り始めの段階では対話する相手の素材がないので、代わりに目の前でセリフを言って、それを基準に合わせて。

井之脇 案外、その時の芝居で本番の間も決まってしまうので、大事に演じないといけないんです。序盤はふたりだけでなく、みんなで“この世界とどう戦うか”を話し合っていたような気がします。

伊藤 完成品を見ると簡単そうに見えますが、まず構造を理解するところからはいる必要がありました。それ以外は、本当に他愛のない世間話をしていました。

――表現者として、お互いに魅力的だと感じる部分は?

伊藤 海くんは、ナチュラルで控えめなお芝居をされる俳優さんのイメージでした。でも、前回の共演で初めてホン読みをした時に、コメディに振り切った芝居がすでに完成されていて驚きました。その振り幅から、なんでもできる方という印象です。

 あと、すごくタフです。お芝居の中でずっと走り回っていて汗だくなのに、全く疲れている様子を見せなくて。飛ぶアクションがあるシーンでも、私が想定していたイメージの倍くらい飛んでいた記憶があります。

井之脇 万理華ちゃんの素敵なところはいっぱいありますが、どんなセリフやシーンも“自分のシーン”にできる力はすごいなと思います。

 前作も今作もコメディで、バラエティに富んだキャストたちが、しっちゃかめっちゃかな展開を描く側面もあります。でも、万理華ちゃんがマドカとしてそこにいると、何気ないセリフにも血肉が通っていて、しっかりと“マドカの物語”という軸に戻してくれる。安心感と頼もしさがありますね。

――30代をどのように過ごしていきたいですか?

伊藤 ストレスを溜めないようにしていきたいです。私はたくさん足掻いて、失敗をして、他人と比べて20代を過ごしてきました。そんな日々を経て、今は自分をすごく好きになれています。自分の立ち位置や目指す場所、まわりの信頼できる方々、そういった地固めが30代に差し掛かる頃からできてきました。

 築いたものを信頼しながら、自分を否定せず、30代も楽しく表現活動ができたらいいなと思っています。

井之脇 僕も、いちばんは楽しく過ごすこと。でも、そのために20代で積み上げた土台に安心しきらないで新しいこと、楽しいことへのアンテナを張り続けることを忘れたくない。それは、プライベートでも同じです。

 最近、今しかできないことが確実にあると感じるんです。100年生きるつもりで、ふと環境が変わった時にも後悔しないように。30代も新しいことに挑戦していきたいです。

伊藤万理華(いとう・まりか)

1996年生まれ、大阪府出身。2011年、乃木坂46の1期生オーディションに合格し、2017年にグループを卒業。同年開催した初の個展「伊藤万理華の脳内博覧会」に続き、2020年にはPARCO展「HOMESICK」を開催するなど、アート分野でも活動の幅を広げる。2021年、映画『サマーフィルムにのって』で主演を務め、第13回TAMA映画賞最優秀新進女優賞、第31回日本映画批評家大賞新人女優賞(小森和子賞)を受賞。主な出演作に、舞台『リプリー、あいにくの宇宙ね』(主演)、ドラマ『パーセント』(主演)『いつか、無重力の宙(そら)で』『ミッドナイトタクシー』、映画『チャチャ』(主演)『架空の犬と嘘をつく猫』(26)などがある。

井之脇海(いのわき・かい)

1995年生まれ、神奈川県出身。9歳で劇団ひまわりに加入し、12歳の時に映画『トウキョウソナタ』で第82回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞受賞を受賞。日本大学芸術学部に入学し、2015年、在学中に監督・脚本・主演を務めた「言葉のいらない愛」が第68回カンヌ国際映画祭ショートフィルムコーナー部門に入選。近年の主な出演作には、NHK大河ドラマ『いだてん』『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』、連続テレビ小説『ちむどんどん』、テレビドラマ『義母と娘のブルース』『晩餐ブルース』『ぼくたちん家』など。Amazonドラマ『クロエマ』が配信中ほか、映画『あの星が降る丘で、君とまた出会いたい。』が8月7日公開予定。