廊下で“聞こえた気がした”ビニール袋の音

 敷き詰められたカーペットに音が吸い込まれているのか、はたまた人がほとんど泊まっていないのか。深夜のビジネスホテルの廊下は異様なほどに静まり返っていたそうです。

 エレベーターホールに向かう途中、開け放たれていたある部屋の奥で2人の作業員が天井の電球か何かを取り替えようと、脚立に登って作業しているのが目の端に映り、ドキリとしたEさん。

「ふっ……」

「まったく……」

 この静けさの中で音もなく作業をしている人がいたとは……――エレベーターで1階ロビーに降りている最中、EさんはA先輩の昔話に当てられている自分を笑いました。

 人気のないロビーの端にあった自販機には予想通り炭酸水がありました。

 ホテル価格なのか、妙に値段の張る炭酸水に内心毒づきながら小銭を投入していると、さっきの廊下の光景が不意に脳裏に浮かびます。

 壁掛けの時計に目をやると、時間は深夜の1時過ぎ。

 こんな時間に電球の取り替え作業なんてやるだろうか……――ロビーのソファに腰掛けて、炭酸水を一口ゴクリとやりながら振り返るEさん。

 視線に数秒写り込んだ2人の作業員。その瞬間“クシャクシャ”というビニール袋の音が記憶の中で鳴った気がしたそうです。

「はぁー……」

 気分転換にきたのに余計にモヤモヤしてしまったEさんは、深いため息をつくとペットボトルを片手に持ったまま、足早にロビーを後にしました。

 ポーン。

 自室のあるフロアのエレベータードアが開くと、しんとした静寂、そして無限に奥に続いているかのような廊下の景色が目の前に広がりました。

 トスッ、トスッ、トスッ、トスッ。

 うつむき気味に歩く廊下。

 あの部屋をもう一度見るつもりはありませんでした。

 けれど、真横を通ったときにどうしても心が磁石のように吸い寄せられ、視線をパッとそちらに向けてしまったのです。

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