“想像上の”カトリック教会
次に宮下教授が紹介してくれたのが、エマヌエル・デ・ウィッテによる《想像のカトリック聖堂の内部》(1668年)。本作は「教会内景画」という、オランダ独自の主題で描かれている。当時のオランダでは、こうした教会の内側を描く風景画が非常に流行したという。宮下教授が解説する。
「祭壇画や彫刻などがあしらわれたカトリック教会は、プロテスタントの国であるオランダからはほとんど姿を消していました。デ・ウィッテは、そうしたカトリック教会の内部を想像で描いたのです。おそらくカトリック教徒の買い手向けに制作されたのでしょう。とはいえデ・ウィッテはカトリック教会だけでなく、ユダヤ教徒のためにシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)の絵も描いてたり、プロテスタント教会ももちろん描いている。色々な需要に応えた、教会内景画の巨匠の一人です。
本作は特に、教会に差し込む光の描写が見事に表現されています。光の効果や、教会に足を運ぶ人々の繊細な描写をじっくり見ていただきたいです」
フェルメールよりはるかに人気だった「牛の画家」
最後に紹介する見どころ作品は、本邦初公開でもあるパウルス・ポッテルの《水に映る牛》(1648年)だ。28歳で夭折したポッテルは日本ではあまり知られていないが、18世紀から19世紀にかけてのヨーロッパでは最も有名な画家のひとりであり、フランスのバルビゾン派などにも大きな影響を与えた。マウリッツハイス美術館が所蔵する等身大の牛を描いた《牡牛》(1647年)は、同館を代表する絵画でもある。
《水に映る牛》は地平線の低いオランダ特有の風景の中に、水を飲む牛や、木陰でくつろぐ羊、水浴びをする人々など、農村の営みが瑞々しく描かれている。
「ポッテルは戸外で自然を観察してスケッチブックに描き留め、それをアトリエに持ち帰って描くという方法で風景画を描いていました。写生を基にしているため、動物たちが細部に至るまで入念に、生き生きと描かれています。牧畜はオランダの重要な基幹産業のひとつであり、牛は非常に大切な存在でした。
日本ではあまり馴染みのない画家ですが、17~19世紀のヨーロッパにおいてはフェルメールよりもはるかに人気のある有名な画家で、バルビゾン派への影響ーー特に、牛をよく描いたコンスタン・トロワイロンに多大な影響を与えました。トロワイロンの源流にはポッテル、そしてもう1人アルベルト・カイプという、同じくオランダ黄金時代に牛の絵を数多く描いた画家がいます。ポッテルとカイプ、そしてトロワイロンと、“牛の画家”の系譜が続いているのです」
17世紀に経済的な覇権を握ったオランダは、貿易の成功で力を持った市民階級が、王室や教会の代わりに絵を買うようになった。買い手が市民層へと変化したがゆえに発展した、人々の日常や風景、静物など、身近な世界を描いた絵画の数々。目玉作品となる《真珠の耳飾りの少女》はもちろん、同展ではこうした市井の人々の生活を生き生きと映し出した絵画にも注目してほしい。
「フェルメール《真珠の耳飾りの少女》展 17世紀オランダ絵画の名品、奇跡の再来日」 開催概要
会期:2026年8月21日(金)~ 2026年9月27日(日) 会期中無休 ※日時指定制
会場:大阪中之島美術館 5階展示室
https://vermeer2026.exhibit.jp/
