手前の部屋に“一礼”しなければならない

「その寮、外階段使って2階に上がるとさ、1番手前の角に使われていない部屋があるらしいんだけど、その前を通る時に部屋に向かって“深く一礼”しなきゃいけないらしいんだ」

「なにそれ……しないとどうなんだよ?」

「ババアに殴られる」

「……はぁ? お前、ふざけてんだろ」

「いやいや、マジマジ! なんかな、その女はそこの寮長らしいんだけど、その会社が使う前からずっと寮長として住んでいるヤバイ奴らしくてさ、若い女でも訪ねてきた人でも誰これ構わず殴りかかるんだと」

「通報されるだろ、そんなの」

「でも、不思議とそのルールを破った時以外は人当たり良いらしくてさ、周りも『一礼のルールだけ守れば問題ないんだから』って感じに馴染んじゃうらしいんだわ」

「気色悪ぅ……」

 そのアパートの奇妙な噂はまだまだありました。

 あるとき、『例の角部屋から生活音がする』という住人からの声があがり始めたのです。

 何度調べても人はおらず、次第に不気味がった住人は次々退去し始め、挙げ句の果てに近所の住人から『あのアパートのそばを通ると、2階の角部屋から何かを叫んでいる声が聞こえる』という噂まで立ち始めました。

「叫んでいるって、何を叫んでたんだよ?」

「予言」

「は?」

「なんつーのかなぁ、例えば『12日』って叫んだのを聞いちゃうとな、その月の12日に電車で人がはねられるのを見ちゃうらしいんだわ。あと『自転車』って叫んだのを聞いて、数日後に自転車乗っているときに事故ったとか、とにかくそういう不幸な予言めいたこと言うんだって」

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