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どんどん子供に戻っていく父親と対峙する

――タトゥーシール!?

 そう(笑)。海と太陽みたいなデザインだったんですけど、自分だけの海の思い出をずっと持っているという気持ちで。まぁ、何かに生かされたということは全くないんですけどね(笑)。

――関根監督からは、「誰かになる、演じるのではなく、セリフが言いづらければ変えてもいいから、自分の生の言葉を大事にしてほしい」と言われたそうですね。

 ニュアンスが合っていれば、多少てにをはなどが違っても構わないから自分の感情を出してほしい、と。そのことも含め、関根監督は自然体というものを重視してくださる方でした。少年役の中須翔真くんのシーンでは、フレッシュな画を撮りたいから、あんまりテイクを重ねず、まず翔真くんの表情から撮りましょうとか。

 また、千紗子がすごく感情を高めて涙を流すシーンで、私自身の復旧がちょっと大変になりそうな場合は、テストというよりぶっつけで本番の回数を重ねるとか、カメラの前での自然な表情をとにかく大事に撮影されていたのが印象的でした。

――千紗子は、長く絶縁状態にありながら認知症となった父親の孝蔵を介護することになるわけですが、二人の関係もまた重く切ないものでしたね。

 そうですね。威厳ある父親に抑圧されていた千紗子が、今度はどんどん子供に戻っていく父親と対峙しなければならない。自分が知っている父親の像がどんどん崩れていく悲しさや戸惑いというものは本当に大きなものだと思いますし、しかもこの先まだまだ続いていくわけですよね。

 もしかしたら自分も現実に直面するかもしれないことだし、これからの社会が抱えていく大きな課題なのだろうと思います。

2024.06.07(金)
文=張替裕子(Giraffe)
撮影=橋本 篤
スタイリスト=中井綾子(crêpe)
ヘアメイク=犬木愛(AGEE)