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電子レンジで時短調理する3分、本当に必要?

――忙しさなどから料理を敬遠してしまう人に、何かアドバイスはありますか。

 今はこれだけ食べるものがいくらでも売っているから、わざわざ料理しなくてもいい、と思う人も多いかもしれませんね。しかも料理は面倒で大変で時間がかかる、という触れ込みが広がって、それをみんな信じてしまっている。合理性、便利、機能性とか、そういうことが重視される時代でしょう?

 でも、野菜をゆでるのに10分かかるところが、電子レンジなら3分で済むのが便利として、その時間って本当に必要な時間なんでしょうか。

 生きるって、野菜をゆでて、ついでに人参もゆでようかな、それなら人参は少し細く切ったらいいかな、とかそういうことでしょ。ゆでるときに塩とオリーブオイル垂らしたら、ドレッシングなしでもそのまま食べられるなとか、今日はカリッとした感じにゆでようか、柔らかくゆでようか、とか、考えることが生きるってこと。

 料理は面倒だからしなくていいと思ってしまうと、しんどいものになってしまう。でも、歯磨きとか顔を洗うのとかと同じ。好き嫌いじゃなく、するもんやと思えばいい。やっているうちに楽しみが見つけられるようになってきます。

――はじめからおいしく作るのは難しいかもしれません。

 日本人はとても保守的なんです。なかなか自分の考えを変えられないんですね。理論性負荷が高いんです。思い込んだことで、自分の知っていることで満足する。

 たとえばわたしが味噌汁にピーマンを入れると、「へえ、先生そんなんも入れていいんですか、勉強になります」ってみんな驚くんですよ。でも自分ではやらない(笑)。日本人には新しいことって、ものすごくハードル高いんです。

 「先生これどないするんですか?」って聞いて、指導しても、自分の仕方を押し通す、人の言うことをきけへんのですよ。でもね、自分を変えることっていちばんむずかしいんですよね。どんなにお料理を習っても、自分を疑わないといけないですね。私も自分を信じていません。明日になったら、違うことを言うかもしれない。だって私は明日までに何かに気づいて、新しい自分になっているかもしれないからです。やってみてはじめて、そこに気づきがあるんです。

――今はやっぱり、料理する人が減っているのでしょうか。

 高校で講演した時、一人の男子生徒から「家庭料理のない家もあるから家庭料理の話なんてしないでください」と言われたことがあります。今は裕福な家庭でも5人にひとり、7人にひとりくらいは、家でごはんがない子がいてます。家族で料理をしない家があるのです。

 彼には、「自分で作って自分で食べればいい」と答えました。食べることよりも、「料理をすること」が大事なのです。人間ですから。人間は料理する動物です。料理が人間を人間たらしめる。自然と人間のあいだにあるのが料理です。そこに自然を思い人を思う、情緒が生まれ、人や自然を思いやることができるのです。

2024.03.09(土)
文=吉川愛歩
撮影=細田 忠