韓国俳優としてのオファーがなかった

「実は、監督のセリーヌがヘソン役のオーディションをしている中で、最後に会った候補者が僕だったというんですね。というのも、僕は韓国で活動し始めたのも2006年からですし、あまり韓国国内では、“韓国人俳優”とは見られていないんです。なので、ヘソンの役のオーディションでも声がかからなかったんですね。でも、韓国系アメリカ人の僕のマネージャーが、アメリカサイドから声をかけてもらったのをきっかけに、僕もオーディションを受けることができました。最後の最後で、こんな風にこの映画に引き合わせてもらったということも、“イニョン”だなと感じています」

 彼の経歴を聞いていると、韓国で生まれ育って、初めてニューヨークに行くヘソンよりも、むしろ韓国からカナダ、ニューヨークに渡って暮らすノラの方に近いのかもしれない。

「役を与えられたら、まずそのキャラクターと自分の共通点と相違点を探します。今回のヘソンでいうと、感情をあまり表に出さずに抑えてしまうというところが韓国の文化としてあって、そこが自分にもあると思ったんです。僕自身は、韓国に住み始めて長いというわけではないんですが、世界中を転々としてきた中で、アウトサイダーであるということは感じてきました。文化に溶け込んだと思っても、やっぱりどこか受け入れられていないんだなと思う感覚というのは、常に抱いてきました。だから、ニューヨークにひとりでやってきたヘソンの感覚は理解できました」

 ユ・テオの演技のアプローチとしては、共通点や相違点を探した後に、それをどのように言葉やボディランゲージで表していくのかということがあるという。

「自分の感情を、どのように伝えるか、そのために韓国語のスピーチコーチの方と一緒に探りながら演じました。言葉と同様に大切なのが、ボディランゲージですね。ヘソンには、内気で抑制された性格があるので、それをどう表現するかを考えました。そのヒントになったのは、少年時代のヘソンを演じたイ・スミンさんの演技にありました。彼は、いつも体にぴったり腕をくっつけていて、大きな動作を見せません。それがヘソンという人物を表しているなと感じたので、大人になったヘソンも、腕を体から話さないように演じました」

2024.03.09(土)
文=西森路代