どうして一人暮らしを続けているんですか?
哲代 自分を楽しませて、自分を喜ばす生き方がいいですよね。せっかくの一生ですから。
鈴中 とはいえ、一人暮らしで、寂しいなと思うこともありますよね。
哲代 そりゃありますよ。今、一人暮らしされている方、多いですもんね。毎晩寝るとき仏さんや亡くなった主人に「おやすみなさい」と言うんですけどね、この頃はそれを言いとうないときがあるんです。「どうせ一人じゃ……」と寂しく思ってね。でもやっぱり、そこで「おやすみなさい!」って大きな声を出すんです。そうするとちゃんと寝られるけえね。自分でなんとか乗り越える方法を考えていかんと。
鈴中 弱気の虫は早め早めに自分で退治していかないと。
哲代 自分でなんとかせんとね。
木ノ元 寂しい気持ちがあるのに、どうして一人暮らしを続けているんですか? 姪御さんのところで暮らすとか……?
哲代 でもその気にはなかなかならないね。姪は「迷惑じゃないよ」と言うてはくれるけれども、気兼ねがあるからね。どうしても体の都合がつかんときには、お世話になりますけど、まだ自分でなんとかできるうちは、一人暮らしを続けたいです。
鈴中 寒いし、心配ですよ。哲代さんのお宅は土間があって、隙間風が吹いているのに、暖房は小さな灯油ストーブだけですし。
哲代 今朝も灯油を注いできました。重たいんですよ。でも満タンにせんでもいいから。自分で持てる分だけ灯油を注げばいいんです。
鈴中 こっちが「やってあげる」と言うと、「やらんでええ」って。「これも自分のトレーニングです」ってご自分でされるんですよね。やっぱり、自分で思うようにやっていきたいっていうのがあるんですね。
木ノ元 何時に起きても気兼ねせんでいいし。自分で全部決められるというのは、一人暮らしの良さですよね。
哲代 そうですね。
木ノ元 でも施設に入ったら、温かいご飯も用意してもらえるし、全部やってもらえますよ。
哲代 まだ施設に入りたいとは思いません。自分でご飯も炊けるし。昔みたいに薪で炊かんでも、この頃はスイッチ入れりゃあええんじゃけえ。まだ自分の家がええかなあと思いよるんでございます。
木ノ元 できなくなってきたことは、うまいこと周りの人の力を借りながら、一生懸命自分の人生を作っていくというスタンスは、一貫して変わりませんね。
哲代 はい。自分でできることは自分でやってね。
木ノ元 人生100年時代と言われていますけど「そんなに長生きしたくない」という高齢者の方もいらっしゃるみたいで、「生きていくことはしんどいことだ」と思う人も多いんです。哲代さんはどう思います?
哲代 せっかくの人生ですもの、私はギリギリまで生きさせてもらいたいですね。どんな最後になるかは知りませんけど。1920年からですから、4月で103歳。わー、ありがたい人生です。「でした」と言いたいんじゃが、まだ「です」。「ing(アイ・エヌ・ジー)」で生きてます。ほんまにありがたい人生です。
鈴中 『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』の本ができて、多くの方に手に取ってもらって、嬉しいですね。
哲代 一人になっても、こうしてみなさんの支えの中で生きさせていただいているということが、しみじみとありがたいです。
木ノ元 本を通じて、多くの人とまた繋がることができて……。
哲代 幸せです。ありがとうございます。
石井哲代(いしい・てつよ)
1920年、広島県の府中市上下町生まれ。20歳で小学校教員になり、56歳で退職してからは畑仕事に勤しむ。近所の人からは、いまも「先生」と呼ばれている。26歳で同じく教員の良英さんと結婚。子どもはおらず、2003年に夫が亡くなってからは親戚や近所の人に支えられながら一人暮らしをしている。100歳を超えても元気な姿が「中国新聞」やテレビなどで紹介されて話題に。
木ノ元陽子
中国新聞編集委員室長
鈴中直美
中国新聞報道センターくらし担当デスク
102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方
定価 1,540円(税込)
文藝春秋
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2024.01.03(水)
文=ライフスタイル出版部