コロナ禍に書いた私小説が編集者の目に留まり、自身初の小説『説教男と不倫女と今日、旦那を殺す事にした女』(KADOKAWA)を上梓した、お笑いコンビ・レインボーのジャンボたかおさん。私小説で友人や知人の性格を無茶苦茶にできるのが面白かったというその感覚は、あくまでもフィクションである本作品にも散りばめられている。中でも童貞説教男「田中」は、ジャンボさんのかつての心の叫びを投影した人物だそうだ。

 田中、ゆり、夕紀、ぴょん。4人の登場人物の語りは心情の微細な揺れや心の奥底を写し出し、軽妙な掛け合いは笑うこと不可避、コント師ゆえの緻密さが冴え渡る。次第に交差していく壮大な物語の執筆の裏側について話を伺うと、お笑い芸人としての指針のようなものに触れることができた。


「男前で人生ずっと楽しかった奴には寄り添えねえんだよ」

――200ページ以上もの物語を書き上げる上での苦労はありましたか?

 物語自体は、案外スラスラ書けたんです。苦労といえば、宿題を2年間つねに抱えていたってことですね。とにかくサボり癖があるせいで、足掛け2年くらいかかっちゃったんですよ。1章送ったら次の締め切りまでまたサボって、ヘラヘラしたりパチンコ打ちに行ったりしてるうちに、締め切り2日前まじか! っていう繰り返しで。どう足掻いても間に合わないときは嘘ついたこともあって、昭和の文豪よろしく“体調が……”と編集さんに言いました。新人にしてはかなり生意気なことをしてしまい申し訳なかったです。

――それもあって、表紙のイラストを担当された中村佑介さんのスケジュール調整も大変だったとか。

 中村さんにはしっかりスケジュールを取ってもらっていたのに、俺が泡吹くほど遅れたせいでスケジュールがなくなってしまって。中村さんとは、単独ライブのポスターも描いてもらっている間柄。今回も中村さんが以外は考えられなかったので次のタイミングまで待たせてもらって、表紙のイラストが実現して。ストーリー以上の表紙を描いてくださいました。

――今回の執筆方法は、スマホですか? 言葉の掛け合いがあまりに気持ち良くて、もしかしたら、と思ったのですが。

 よくわかりましたね! 全章スマホです。とにかく早く打てるので、メモ帳に書いて編集さんにLINEで送っていました。初めて知りましたよ、メモ帳にもLINEにも文字数制限があるの(笑)。ちなみにネタもスマホで書いてます。俺はスマホ、(相方の)池田はパソコンで書くので、池田の方が書いてる感出ちゃうんですが(笑)。

――フィクションとはいえ主人公の「田中」はお笑い芸人ということもあり、ご自身を重ねる部分もあったと想像します。

 田中には、だいぶ俺の感情が入っていると思います。モテてる俳優さんとかに対して、“男前で人生ずっと楽しかった奴には一生寄り添えねえんだよ、俺らにはよ”という思いがずっとあるので、そこはめちゃくちゃ田中に反映されていますね。本当にごめんなさい、絶対にみんないい人たちだと思うんですけど(笑)。田中のキャラクターと感情はまさに俺。実際に起きていることはほぼフィクション。だから俺だけど俺じゃない、という感じです。

――小説の中で、“偽善で何が悪いんだ”というセリフがありますが、これはジャンボさんご自身の言葉でもあるのでしょうか。

 これ、子どものころから思ってるんです。偽善者の何が悪いんだろうって。カップルがデートしてる時に、普段は絶対譲らないのに彼女にいいところを見せたくておばあちゃんに席を譲ったとしたら、譲らないよりもそっちの方が絶対いいじゃないですか。高感度上がったぞ〜っという下心があっても、譲った奴の方がいいことしてる。してもらった方が嬉しかったら良くないか、って昔から思っていました。

 俺自身もめっちゃ性格悪い面もあるけど、めっちゃ空気読むし、めっちゃいい奴の面もあると自覚してるんですよ。それってどっちも本当の俺なんですよね。今回で言えば「夕紀」のように、意地悪な面と優しい面は一人の人間の中に両立する。それを書きたかったのもありますね。人間は単純じゃねえよっていう。

――人間のある一面を浮かび上がらせることはコントでもされていると思いますが、小説という形で書きたかったことは何だったのでしょうか。

  例えば、人を好きになるときの表現で、ダサ! 恥ず! って思うフレーズも、小説では田中と夕紀さんになら言わせることができた。コントでは絶対言えないんですよね。俺の思想として持っていることはコントにもYouTubeにも全部出していると思いますが、笑いがなくても言いたいことはこの小説に込められたと思います。

2023.12.15(金)
文=藤井そのこ
撮影=平松市聖