3人で親になったというより、5人でファミリーになった

文野 この前、久々にちょっと言い合いになったよね。ゴンちゃんスマホばっかり見て! って。

ゴン ああ、あったね。

文野 僕とゴンちゃんと子どもたちでごはんを食べると、子どもは2人とも僕のところに来てしまう。ゴンちゃんにも1人を担当して食べさせてほしいのに、ずっとスマホを見てるんですよ。

ゴン 仕事で、申し訳ない……。

文野 そう、でもそれは彼女といる時の僕も同じで、「だって、ママの方に行っちゃうからしょうがないじゃん」って思ってた。2人で子どもを見ているつもりでも、どちらか1人に偏ってしまう。「そうか、僕も彼女に気が利かないと思われているんだな」とわかったんです(笑)。この感じが両方経験できて面白い。

ゴン 僕は「パパ、ママの隣にいるゴンちゃん」という存在で、従来の親子の概念では親ではない。だから自分で「僕はこの子の親だ」と思うことで親であろうとしている感じです。子どもたちが“ゴンちゃん”をどう思ってくれているかはわからないけど、僕にとっては2人とも心の底から愛おしくて大切な存在です。

文野 現在の法律では僕は彼女と夫婦にはなれないし、子どもと血の繫がりもない。でも子どもたちは当然のように僕に甘えて「パパ」と呼んでくれる。親子や家族の関係って、日々の関わりを通じて少しずつ築き上げるものなんだなと思います。

ゴン よく「3人で親になった」と言われますが、「5人でファミリーになった」んですよね。子どもだって生まれたときから人格も人権もある。彼らの意思を尊重し、いつでも支え合える関係でありたい。僕はサード・プレイス的な存在、「サード・ペアレント」になれればと思ってるんです。子どもたちがより意志を持って行動するようになり、パパ・ママ以外の場所が必要になったときに頼ってもらえる存在を目指したい。

文野 親になることができて本当によかった。子育てを始めて、人生がより豊かになったと感じています。だからこそ、「LGBTQだから」「法律上の結婚ができないから」という理由でこんな素晴らしいことを諦めるしかない、そんな現状は変えたいと、強く思うようになりました。

杉山文野(すぎやま・ふみの)さん

1981年東京都生まれ。出生時に女性と性別を割り当てられたが、性自認は男性のトランスジェンダー。飲食店の経営をしながらNPO法人東京レインボープライド共同代表理事やJOC理事などを務め、LGBTQの啓蒙活動を行う。


松中 権(まつなか・ごん)さん

1976年石川県生まれ。認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ代表、公益社団法人Marriage For All Japan-結婚の自由をすべての人に-理事。同性婚の法制化に向けた活動など、多数のプロジェクトを手掛ける。

『元女子高生、パパになる』

彼女と出会い、ゴンちゃんの協力を得て子どもを授かるまでの物語。LGBTQの問題を知る入門書としてもおすすめ。杉山文野/文藝春秋 1,540円(税込)
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『3人で親になってみた  ママとパパ、ときどきゴンちゃん』

彼女と、そしてときどきゴンちゃんも一緒に、子育てに向き合う日々。新たな家族のかたちを探る一冊。
杉山文野/毎日新聞出版 1,650円(税込)
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2023.06.16(金)
Text=Lemon Mizushima
Photograph=Ichisei Hiramatsu

CREA 2023年夏号
※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

この記事の掲載号

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CREAで10年ぶりの「母」特集。女性たちにとって「母になる」ことがもはや当たり前の選択肢ではなくなった日本の社会状況。政府が少子化対策を謳う一方で、なぜ出生数は減る一方なのか? この10年間で女性たちの意識、社会はどう変わったのか? 「母」となった女性、「母」とならなかった女性がいま考えることは? 徹底的に「母」について考えた一冊です。イモトアヤコさん、コムアイさん、pecoさんなど話題の方たちも登場。