川上 登場人物たちは、たしかに思いもよらない決断をしてくれることがあって、それはたいがいその小説がうまく進んでいる時。削ることに関しては、私も『なな物語』という話を書いた時、やたらと長くなっちゃって、単行本にする際に一年以上書き直し続けたという悲惨な記憶があります。
 今回は、どのあたりがとくに苦しかったですか?

一穂 三章に入ってからですね。大人になって、彼女たちがそれぞれの人生を歩み出してから。東京を離れた二人がどんなふうに再会するのか。再会して、どんなふうに心が動くのか。さらに、お互いに結婚とか子どもとか家庭の問題も絡んでくるので、二人がそういうものをただ置き去りにするわけにもいかないし、と悩みました。最終的にたどり着いたいまの形でも、読者のなかには違和感を持つ方だっていると思いますが、そこは物語の中の人たちの決断なので、仕方ないな……と思いながら(笑)、なんとか走り切りました。

川上 それ、すごく大事だと思います。私も自分じゃない人の目で読んでみたときに、これは嫌な気持ちになるだろうか? という可能性をつい考えてしまう。でも、物語が要請するときは、それを曲げちゃいけないとも思う。だけど、それってすごく勇気がいりますよね。

一穂 そうなんです。つい、登場人物の行動を正当化しなきゃと無意識に考えてしまうこともあります。主人公が何かを捨てるには、「つらい環境」とか「ひどい家族」とか逃げたくなるような要因を用意しなきゃと思ったり。      

 でも今回は、DVをするとか分かりやすい欠点をもった男性を登場させるのは違うなと思って、そこは意識しました。「そんな男のもとからはさっさと逃げ出したほうがいいよね」という文脈があると、それはもう二人の決断の話ではなく、男性の加害性の問題になってしまう。
 
 今作では、いわゆる「シスターフッド」を書きたかったわけではなくて、すごく閉じた二人の唯一無二の関係性、しいていえば、愛情の原液みたいなものというか……。小さい頃って、仲良しの子とは毎日会っても足りなくて、バイバイしてもすぐ会いたいとか、たまにお泊まりできると夢のようだとか、そういう愛情の原液を原液のまま抱えて大人になったらどうなるのかというのを書きたかったのかなと思います。二人のあいだにあるものが何なのか、書いてるときは自分でも言語化できなかったんですけど。

2023.04.07(金)