厨房で仕込まれたうどんを自販機に補充

 自販機で提供されているうどんは、毎朝、お隣にある厨房で仕込まれている。4人ほどの調理スタッフによる作業を見学させてもらった。

 テーブルの上には大量の器が並べられ、ここに麺と具を手際よく載せてゆく。ネギは近くで採れたものを使っている。天ぷらは、毎朝揚げているという。統一された具材やレシピがあるわけではなく、同じ自販機でもお店によって中身は違うのだそうだ。

 お湯で戻すフリーズドライのような具をイメージしていただけに、圧倒的な「スローフード」ぶりに驚かされた。

 厨房で仕込まれたうどんは、クリーム色のトレイに入れられ、自販機に補充されてゆく。レトロな筐体を開けると、内部にはらせん状のレールが鎮座していた。筒状の容器にはだし汁が入っている。一度の補充で20杯ほどセットできる。

 多い日だと400食は売れるというから、日中の補充作業も大変だ。しかし、慣れているスタッフはリズミカルにうどんの器を自販機に投入してゆく。

 

優しい味わいながらも満足感の得られるうどん

 さて、気になる味はどんなものだろうか。一番人気だという「スタミナうどん」(400円)をいただく。第一印象は「熱い!」。うどんの器を手にとると、まずその容赦ない熱さに驚かされる。

 具は、えび天、ゆでたまご、牛肉、カマボコ2片、ねぎ、わかめ、ゆず。ここに透き通っただし汁がかかっている。値段と自販機という形態からは想像できない、ボリューム感のある一杯だ。

 まずはスープから一口。フワーッと、ゆずの香りが広がる。

「近くにある益田市美都町がゆずの名産地で、そこのものを使っています。秋だとまだ青いですが、冬になると黄色くなりますね。その時期のゆずを冷凍しておいて、1年中うどんに入れられるようにしています」(後藤さん)

 このゆずが実に良い仕事をしており、チープさは一切感じられない。

 加えて特筆したいのは牛肉だ。甘辛い味付けで煮こまれた牛肉は、毎日仕込まれているという。上から熱いだしを注がれることによって、牛肉の脂と煮汁が溶けだし、スープのコクになっているのだ。

2022.12.01(木)
文=「文春オンライン」編集部