新しいことをやりたいけれど、時間も自分も足りない

――3月に出演された舞台『奇蹟 miracle one-way ticket』(北村想作 寺十吾演出)で劇中、歌を歌われたときに、一瞬で劇空間が異次元に持っていかれたように感じました。井上さんの歌声は神様のギフトだなと思います。歌うことでご自身が救われる、解放される感覚はありますか?

 もともと音楽は、そういう力を持っているんだろうと思います。最近思うのは、僕は歌も音楽も好きですが、たまたま得意だった。「足が速かった」というのと同じです。もちろん訓練して、何がしかのものにしようとしてきましたが、純粋に「好き」というのとも少し違う気がしています。仕事にしてしまったせいもあるかもしれませんが(笑)。

――クリスチャンでいらっしゃるからかもしれませんが、ファンの方への気遣いなどを見ても、神様からもらったギフトを自分だけのために使うのではなく、広く届けようとされているように感じます。

 そうありたいとは思っているかもしれません。基本的に、いままで自分が受け取ったものはお返しする、それはくださった相手に対してだけではなく、どちらかというと次の人たち……周りの人や出会った人に渡して循環していくしかないのかな、という気がしています。自分のところにだけ留めておいては回らなくなってしまうから。とくに芸能の仕事はそういう要素が強いと思います。

 ちゃんと循環させられているかはわからないけれど、この仕事は好きなので、続けていくためにも回していきたいという意識はありますね。

――井上さんは将来のビジョンを持って進まれるタイプですか?

 明確なビジョンはないですが、最近、考えますね。これまではイケイケどんどん的な、広げて増やして、という方向でしたけど、年齢的にも体力も思うようにはいかなくなるでしょうし、時間は限られるから、どこかの時点で取捨選択しなくてはいけない。ただ、新しいことをやりたい気持ち、声をかけていただいて嬉しい気持ちはあるので、時間も自分も足りなくて、どうしたらいいのか、答えは全然見えずです(笑)。

2022.11.06(日)
文=黒瀬朋子
ヘアメイク=川端富生
スタイリスト=吉田ナオキ
撮影=平松市聖