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オリジナル脚本の9割は企画が通らない

――渡辺さんのオリジナル脚本は、9割以上企画が通らないという話を以前伺ったことがあります。今回も難航しながらでしたが、ついに放送までこぎつけました。今まで実現できなかった作品はたくさんあると思うのですが、それは今回のように人生をかけてドラマをつくろうとしてくれるプロデューサー(または監督)が少なかったからですか?

渡辺 民放でも企画途中まで進めたことは何回かあるのですが、なぜかうまくいかなくなるんですよ。以前来ていただいた方のケースでいうと、数字(視聴率)が取れなくてもいいから私とやりたいと言って来てくださったのですが、途中で怖くなってしまったようです。やはり視聴率という縛りが強かったのでしょうね。基本的にテレビはリアルタイム視聴率至上主義ですから。それに対して私がちゃぶ台をひっくり返したみたいなことはありました。

――民放の場合、スポンサーからお金をもらってドラマを制作しますからね。この仕組みが足かせになっているのかもしれないですね。渡辺さんはプロデューサーから脚本の依頼があった場合、基本的にどの方とも最初は対話をしながら作品のテーマを探っていくのでしょうか。

渡辺 そうですね。たとえば漫画や人気小説など原作モノをオーダーする方はとても多いんですけど、そのほとんどを私がお引き受けしないのは、それが来てくださる方自身の心の中から湧き上がった題材ではないから。原作モノの題材に対して一番思い入れを持っているのは、原作者本人ですよね。他の方が思いを込めてつくったものをいくら私とプロデューサーの間でもんでいっても、突き抜けた作品はつくれない。それはすごくもったいないことですよね。

 私も佐野さんもそうですけど、つくり手であれる時間はとても短いものです。人生の中で、せっかく作品をつくれる機会が与えられているのに、自分たち自身の中から湧き出たものをつくろうとしないでどうするの?と思ってしまいます。それに原作モノの話がくるのは、視聴率が確実に見込めるという判断もあるのだと思います。創作の現場において経済効率が優先されてしまっていることも気になります。

――染みました……。諦めて帰っていった人はもったいないですね。

渡辺 本当は絶対その人の中に何かしらあるはずなんですよね、切実なテーマが。だけどそこまで突き詰めることなく終わってしまうことが多いです。

社会への問題意識を作品で伝える

――「ワンダーウォール」(2018年放送)「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021年放送)など、近年の渡辺さんの作品をみていると、社会に対しての問題提議や問いかけを強く感じます。それは最近の渡辺さんとプロデューサーとの間に立ち上がった共通項となるテーマが、社会的な問題であることが多いからですか?

渡辺 そうだと思います。具体的には特定秘密保護法などがあっという間にひどい形で強行採決されたあたりからでしょうか。それまで私はまったく政治に興味を持たずにいた人間ですが、権力側の暴走や表現・言論の自由の萎縮から生まれる“危機感”を抱きました。その頃は周りも政権に対して怖がっているムードがあり、マスコミも政府が明言したことしか報じない。これはさすがになにかおかしいと思いました。

――本来「権力の監視」はマスメディアの重要な使命のひとつですが、その多くは権力の拡声器のような状態にあったように思います。

渡辺 でも、マスコミの中にもこの状況に対して「おかしい」と思っている人が1人か2人位はいるはずなんですよね。そういう人たちのことを書きたいと思ったのが、今作をつくる最初の動機でした。まさに長澤まさみさん演じる主人公がそういう人です。

佐野 今作の主人公たちは、自分には価値がないと思っていて、テレビもまた終わっていくメディアだと諦めながら働いている。私も初めてあやさんと出会った頃は、自分には価値がないと思い込んでいました。でも、自分自身の価値は自分が決めるべきだということを私はあやさんに教えてもらいました。この主人公たちがどう成長していくのかにも、期待して観ていただきたいです。

2022.10.24(月)
文=綿貫大介