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誰でも美味しい料理が作れる書籍がグランプリを受賞

 今年6月、スウェーデンで開催された“料理本のアカデミー賞”とも言われるグルマン世界料理本大賞2022で、奥田シェフの著書『パスタの新しいゆで方 ゆで論』(ラクア書店)は、グランプリを受賞しました。

 同書は、これまで正しいとされてきたパスタの茹で方とは異なる、奥田シェフの経験から得たメソッドを系統立ててまとめたもの。塩分濃度から、茹で上がりの処理、ソースの考え方、混ぜ方、それらの科学的な分析、さらには厨房の配置まで、事細かに公開しています。これを読めば、誰でも奥田シェフになれるのでは? というほどに。

「その通り。これはもともと、僕がいなくても、各地の直営店やプロデュース店の料理がブレないようにと作った教科書ですから。僕は、自分の経験で得た知識や技術は、すべてシェアする主義。レシピもプリントしてスタッフに配っているし、料理体系もわかりやすい図にして配り、各自部屋に貼っておくようにと伝えています」

味を科学的に検証して言語化していく

 『ゆで論』は、英語版、ハンガリー語版の話も進んでいるそうで、鶴岡の名が世界に発信されるのも楽しみだという奥田シェフ。次の著書は『あじ論』を予定しているとか。

「料理の味は結局のところ、素材と塩、水で決まるんです。あとは、素材が生きていたときに経験したことのない“温度”をどう加え、その人好みの味に仕上げるか。茹でる、油で炒める、揚げる、蒸す、焼く……その法則がわかれば、料理はぐっと簡単になる。アル・ケッチァーノの料理は、見た目はイタリアンだけど、食べると日本人の遺伝子に訴えかけるような味になっています。それを科学的に検証し、ちゃんと言葉にしてシェアしていきたいと思っています」

 奥田シェフのテーマとも言える「シェア」の精神は周囲を巻き込み、地元農家の活性化や地域経済の循環にもつながっています。「アル・ケッチァーノ鶴岡本店」の厨房は、その拠点。ちょっとのぞいてみましょう。

2022.09.25(日)
文=伊藤由起
写真=橋本 篤