ウイットに富んだスローガン、抗議活動の象徴になったペンギン
彼らのスローガンにはウイットに富んだエスプリが多く、「ゲジスローガン特集」を組んだメディアも数多くありました。例えばエルドアン首相がデモ参加者を「チャプルジュ(強奪者、ならず者)」呼ばわりしたことを受けてこの言葉は流行語となり、チャプルジュソングやチャプルジュ行動党、さらには“チャプリング(Chapulling)”という造語も誕生。ウェブ辞書には「圧力に対し抵抗する、権利を求める」などと解説が入っています。タキシムの壁にはデカルトの“I think, therefore I am(われ思う故にわれ我あり)”をもじって“I Çapul, therefore I am(われ抵抗する故にわれあり)”と書かれてもいました。
トルコの東大といわれるボアジチ大学のジャズ合唱部は、ゲジ公園抗議活動をサポートするために“Çapulcu musun? Vay vay(チャプルジュなの? へえ~)”という曲を作り、抗議デモ中の公園でアカペラを披露、これはYouTubeなどでまたたくまに広まり、抵抗の象徴となりました。
右:Duran Adam(立ち止まる人)運動を展開する人々
ペンギンもゲジ公園で愛されたキャラクターのひとつ。ゴールデンタイムにゲジ公園デモのニュースを意図的に報道せず、皇帝ペンギンのドキュメンタリーを延々と流していた地元ニュース専門局を揶揄して、ペンギンは抗議活動の象徴になったほどです。
新たな非暴力デモのあり方としてDuran Adam(立ち止まる人)という行動も生まれました。モダンダンスと舞台芸術を学ぶ大学院生が、警察の暴力に抗議する表現方法として無言で、ただじっと立ち続けるだけという運動を行ったところ、彼に同調した人々が続々とタキシムに集まり始め、一時期は300人を超える人々がタキシムで抗議の無言スタンディングを行いました。この抗議方法はトルコ全国に広まり、今でも時々行われています。
この元気でポップな反政府デモ、今回はひとまず政府によって力で抑えつけられてしまった感があり、タキシムも週末のデモを除けば平穏に戻りつつあります。しかし、この90年世代がゲジ公園反政府運動という大きな時代の流れを自ら創り出し、経験したことは、トルコの未来にとってひとつの大きな希望だと見ることもできるのではないかと思うのです。
安尾 亜紀 (やすお あき)
イスタンブール在住。イスタンブール大学大学院女性学研究所卒。女性誌や料理誌、報道関係まで幅広い分野でライター・コーディネーターを担当。トルコの「おいしい・楽しい・新しい」を中心に、All Aboutトルコ・イスタンブールでも情報発信中。
text&photographs:Aki Yasuo