イスタンブールのニシャンタシュといえば、日本でいうところの銀座的エリア。高級ブティックが並ぶこのセレブな町に、10年以上根強い人気を誇るデリカテッセン&カフェがある。

左:レシピ研究中のシェムサさんと仲間たち。海外の料理本もどんどん取り入れながら、自分流のおいしさを見つけていくのが楽しいのだとか
右:惣菜部門。その日のメニューが書かれた黒板は、毎日のように書きかえられる

 カンティン=食堂という意味の名を持つこのお店、半地下の入口から一歩中に入ると、おいしそうな匂いとともにパン、ケーキ、惣菜などが並んでいる。見た目もオシャレな上に色あいや配置の具合などが食欲をそそるこのフロア、ケバブ中心の伝統的トルコ料理を想像して来た人にはオドロキだろう…… それもそのはず、ここの経営者兼シェフのシェムサ・デニズセルさんはロンドンで出版・広告を学んだ元料理写真のスタイリスト。いかにおいしそうに見せるか、というポイントに関してはプロなのである。種類も、伝統的なトルコ料理という枠には収まりきらない創作料理の数々で、これまでにご本人が創作したレシピは200を下らないという。

パンの種類も豊富。トルコではなかなかお目にかかれないヨーロッパ系のパンが多い

 シェムサさん曰く「イスタンブールはかつてオスマントルコ帝国の首都であり、広い地域を征服して世界中から料理レシピが集まった都市。宮廷料理から家庭料理まで、イスタンブールには独特の混在料理文化があるのよ。そんな豊かな料理文化を見つめ直しつつも、色々な国のおいしい料理や自分の創作アイデアも吹き込んだ料理を編みだしていきたいの」だという。確かに、その豊かな自作メニューからは、およそ国境を感じない。

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text&photographs:Aki Yasuo