多くの若者がゲジ公園に集まって……
いつもはカフェや博物館など街角情報を取り上げていますが、今回はちょっと趣向を変えて、2013年春に話題となったタキシム・ゲジ公園デモについて、そのポップな文化としての抗議集会をレポートしてみようと思います。
5月下旬からトルコ・イスタンブールをにぎわしている、ゲジ公園開発反対・反政府デモ。当初は新市街の中心地、タキシム広場の後方に広がるゲジ公園の開発プロジェクトに反対する運動でした。しかし初期に行われた警察の暴力的な介入がソーシャルメディアで広がると、これまで政府に不満を持ってきた多くの若者がゲジ公園に集まることに。一時はデモ隊によってタキシムエリアが占拠され、ゲジ公園には何百・何千ものテントが並びました。
2002年にエルドアン政権が発足して以来、この10年で、確かにトルコ経済は急速な発展を遂げていますが、同時にその締め付け政策に息苦しさを覚えている国民も少なくありません。アルコールを規制され、女性は中絶が許されずに家で子どもを3人以上生むことを求められ、古き良きイスタンブールの象徴であるタルラバシュ地区や老舗映画館・エメッキシネマスは開発プロジェクトのため解体され、報道の自由は制限され、軍幹部やジャーナリストは投獄され……、彼らが見ているのは、華々しいトルコのサクセスストーリーではなく、こうした開発の裏で失われていくものと、私生活にまで立ち入って自由を奪う、その保守的な政治手法なのです。
こうした背景の中で瞬く間に巨大化した反政府デモ。必死に唾を飛ばして怒りまくるエルドアン首相とは裏腹に、いわゆる「90年世代」とメディアでもてはやされていた今回のデモの主役たちは、公園で昼間は本を読んで過ごし、夜になると歌ったり踊ったりと、まさにウッドストック的な空気を楽しんでいました。これは今までトルコで繰り広げられてきた抗議デモとはかなり異なったテイストといえます。彼らの多くは裕福な家庭の大学生で、スマートフォンを持ち、特定の政党に属しているわけでもない。主張したいイデオロギーも特にないので、公園内にクルド系政党がいても、極左系政党が入っても、ニコニコしながら手を組んで、互いに助け合う。彼らが求めるのは、とにかく「私たちの私生活への干渉をやめて欲しい。大好きなイスタンブールを壊さないでほしい」という願いなのです。
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text&photographs:Aki Yasuo