モミの木の人生が読み手にも重なる味わい深いストーリー

『モミの木』(文:ハンス・クリスチャン・アンデルセン/絵:サンナ・アンヌッカ/訳:小宮 由 出版社:アノニマ・スタジオ)

 豊かな森に暮らすモミの木。まわりのモミの木たちはどんどん切り倒され、森から出ていきます。それぞれ別の場所で役割を与えられて過ごしているという噂を聞くモミの木は、自分も早く大きくなって別の世界に行きたいと願うばかり。「今を生きなさい!」と諭すお日さまの声も届きません。

 やがて森から切り出されたモミの木は、クリスマスに美しく飾り付けられ大いに喜ぶのですが……。

「物語に登場するモミの木の姿を見ながら感じることって、人によっていろいろあると思います。夢ばかり見ていていいのか、今の自分の時間と向き合わないともったいないんじゃないか、あるいは夢を見て先へ先へ進むのが正しいんじゃないのか……。

 この絵本を自分と重ね合わせて読むと、そのときどきの状況によって何を思うのかは異なるでしょう。去年読んだときの感情と、今年読んだときの感情といったように。読んだそのときの自分の想いがまるで跳ね返ってくるようなお話なんです。すごく大人っぽいお話だけれど、むしろ大人のクリスマス絵本ならではの物語だなって思いますね」

――大人になって読むからこそ、一層深く感銘を受けるクリスマス絵本を紹介していただきました。今年の冬は絵本を片手に過ごしてみてはいかがでしょうか?

2021.12.19(日)
文・取材=海老エリカ(A4studio)