『明け方の若者たち』で描かれる“マジックアワー”

 バトンを受け取る、という表現には北村さんの俳優としての覚悟が刻まれている。

 「僕のマインドとしては、今、同じ世代で“面白いことを作ろうぜ”となっています。これまで本当に素敵な監督に出会って、素晴らしい人たちともたくさん共演してきて……。だからこそ“じゃあ次は僕らの番でしょ”というのも、すごくあるかもしれない」

 2021年12月31日(金)に全国公開を迎える『明け方の若者たち』も、その一作と言える。北村さん演じる“僕”、彼と恋に落ちる“彼女”の黒島結菜さん、“僕”の親友“尚人”の井上祐貴さん、さらに監督は北村さんと10年前に学園ドラマで共演した松本花奈さん。20代という若いチームで青春譚を撮り上げた。

 「同世代でこの作品を作ったというのは大きいです。何かすごくいいキッカケかもしれない、と思っています」と北村さんは予感をにおわせる。

 “僕”が“彼女”に一目惚れするところから始まる本作は、王道のラブストーリーのようでいて、繊細な“僕”が学生から社会人になり挫折を味わい移ろう話でもある。鬱々とした気持ちを抱えながら日々を過ごす“僕”の心の変遷をたどる、痛く、切ない物語。

 「この作品で描かれている愛は、若者たちが社会に出て、絶望したり、何かに縋るしかなかったりする中から生まれたものだと思います。もしかしたら間違っている恋愛だったかもしれないけど、ものすごく濃くって。今の社会は、一定の線からはみ出さないように、むしろはみ出しちゃいけない……。そうどこかで思ってしまうけど、“僕”がちょっと外れたときに生命感があふれる感じが、いわゆる学生のときにちょっと悪いことをしてワクワクする感じでわかる、というのがこの映画のよさなのかなと思います」

 だからこそ万人に伝わる作品になったのでは、と北村さんは感じている。

「僕が当時、傷をなめ合っていたあのお店のように、ちょっと傷をなめてくれるような、許してくれるような映画なのかもしれない。僕らより上の世代の人たちが“あの頃”に帰れる映画になっていればとも思います。僕は、この映画を作って“あの頃マジックアワーだったな、良かったな”と思えたので、そういう時間を感じてもらえたら嬉しいです」

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北村匠海(きたむら・たくみ)

1997年11月3日生まれ、東京都出身。2006年に芸能界に入り、’08年よりドラマと映画に初出演して以降、様々な作品に出演。待機作に映画『とんび』(2022年)のほか、キャリア初となる舞台「マーキュリー・ファー Mercury Fur」(2022年)がある。

映画『明け方の若者たち』

学生最後の退屈な飲み会で出会った彼女(黒島)に、一瞬で恋をした僕(北村)。世界が彼女で満たされる一方で、社会人になった僕は息の詰まる会社で、夢見た未来とは異なる現実に「こんなハズじゃなかった」と打ちのめされていく。2021年12月31日(金)より全国公開。

2021.12.30(木)
Text=Kyoko Akayama
Photographs=Tomoki Kuwajima
Styling=Shinya Tokita
Hair & make-up=Asako Satori

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※この記事のデータは雑誌発売時のものであり、現在では異なる場合があります。

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