本当の自分の“プロフィール”を探して

――美弥さんが見つけた、「美弥さん自身が喜ぶこと」とは?

 「どういう時に自分って嬉しいのかな?」と考えた時、たとえば本当にただ公園に行って、緑を見るだけで幸せな気持ちを感じる。「あっ、私は自然が好きだったんだ」……みたいな(笑)。

 本当に初歩的な“自分のプロフィール”をようやく今探して、考え直しているところです。好きな食べ物や好きな色など、本当は自分って何が好きだったんだろう?と。

 横のつながりがすごく大事になってくると言われているこれからの時代において、「あなたはどういう人ですか?」と聞かれた時に、「私はこういうことが好きです、こういうことは嫌いです」と、すぐに自分のプロフィールを自信を持って言えるような人になりたいと思っています。

 ある意味“自分ファースト”になることは、一人ひとりの色がはっきりしてくる今の時代を生きるために必要なことだったのかもしれません。

 時代の変化に合わせて、自然に自分自身と向き合う時間がもらえているような感じがします。だから今、自分と対話するというとても充実した時間を過ごしている最中ですね。

――人生初の一人旅にも行かれたそうですね 。

 そうなんです。緊急事態宣言が出る前にですが、行き先だけは決めて宿とかは取らずに、その日の気分で、ふらっと行くという(笑)。

 朝起きて、「今日自分がどうしたいか?」という自分の心に従って旅に出るんです。

 「温泉に入りたいのか? それともアクティブにちょっと都会の方に行きたいのか?」そんなことさえも今まで自分のことを見てあげられていなかったので……。

 ちょっとリハビリみたいな意味も込めて、いつも住んでいる場所ではないところに自分を置いて、新しい感覚や直感とか、そういったものを研ぎ澄ませられる時間になったらいいなと。

 今思い出してもすごくいい時間でした。行きたいところに行って、その土地でしか会えない人と交流している時、すごく楽しいと心から思って勝手に口が笑っちゃっている……みたいな感覚って初めてのことで。

 「あっ、私って実はとても自由が好きなんだな」とか、人と人とのつながりの中で「私もこういう人間になりたいな」とか。

 旅先での食事も一人でするから、自分で自分の心に「何が食べたい?」と問いかけるのも初めてで、それも新鮮でした。

「いつもと違うものに囲まれて、自分が何を思うのか、感じてみたかった」

 実はこれまでもインタビューで、「自分の心が喜ぶ選択をしていきたい」って言っていたんです。

 無意識だったんですが、それが私の願望で、自分がありたい姿のことを言っていたんだなと、一人で旅した時に気づかされました。

 何時にこれをしなきゃ、どこに行かなくちゃではなく、自分の心のままに行動することがこんなにも贅沢で、そして自分で自分を幸せに出来ることなんだ、と実感できたのが一人旅でした。

 1度その感覚を味わっておけば、日常に戻り、こうやって皆さんに囲まれてまた仕事がスタートしても、たとえば、おうちに帰った瞬間にスイッチを切り替えられるという嬉しい変化もありましたね。 

――素敵ですね。いい意味で力が抜けて、これまで以上に、自由に伸びやかに活動されているのではないでしょうか?

 そうですね。もともと表現の場である舞台において、ずっと男役という枠にいたんですが、卒業する2年前くらいから、自分がニュートラルな位置に居ることに気づいたんです。

 その時もすでに、ニュートラルな男役をすることに対して、何も無理はしていなくて、一生懸命作って演じていたというわけではないんです。

 今、こうして卒業して、一人の人間として何かやろうとした時、やはり自分はどちらかに決めず、ニュートラルなままでいていいんだ、と改めて思ったんです。

 そうして自分がいつも、真ん中のニュートラルな状態でいることが、自分らしさというか、それが自分なんだと気づいたら、すごく楽になりました。

――どちらかに決めなきゃならないなんて、決まりはないですもんね。

 そうなんですよね。だからもともと変だなって思っていたんですけど(笑)、今はもっと変だなって思うようになりました、 なんで宝塚を辞めたからって、『女優です』って言うんだろう、みたいな。

 同時に少し、不安もあったと思います。もしかしたらどこかで人にどう思われているんだろう、と気にしていた部分もあったかもしれません。

 でも今はもう何て思われてもいいな、というか。自分が自分を「それでいい」と認めてあげたら、自分にとってはそれが正解だから。そうしたら不思議と気にならなくなりました。

 逆に言うと、今までが、いかに周りからの情報によって自分がどれだけブレていたのか気づけました。周囲の情報を見なくもなったし、たとえ見たとしても、感情に振り回されなくなったのはよかったと思っています。

2021.06.17(木)
Text=Kyoko Murahana
Photographs=Takeshi Takagi(SIGNO)
Hair & make-up=Tomoko Okada(TRON)
Styling=Yumeno Ogawa