月組・二番手時代の葛藤

――月組の二番手時代、トップスターになられた珠城りょうさんが下級生で、美弥さんが上級生という特殊な形になりましたが、組としてはとても良い雰囲気だなと感じていました。そういう中で美弥さんは、どんなことを考えられていたのでしょう?

 りょうちゃん(珠城)がトップとしてスタートするときに、「自分がいることで彼女が負担にならないかな」とか、「月組のみんなはどう思うのかな」といったことを考えて、辞めるべきかどうかすごく悩みました。

 たとえ自分はまだ舞台に立ちたいと思ったとしても、そう思わない人が一人でもいるのであれば、いるべきではないと思ったんです。

 一方で「残ってください」と言ってくださった方々の気持ちも無駄にしたくないですし、応援してくださっているファンの方は1日でも長く舞台を観たいと思ってくださっているし、もう「どうしようどうしよう」と、とても悩みました。

 でも最終的には、彼女を頂点に新しくスタートする組の景色を私も見てみたかった。下級生といっても舞台人は板の上に乗ったらそんなことは関係なくて、みんな同等です。

 私は昔から彼女のことを下級生と思って見たことはなくて、人としても舞台人としても尊敬しています。ただ、こうして色んな葛藤を経て残ることを決めましたが、同時に、漠然とではありますが卒業する時期も考え始めました。

 いざ新体制がスタートしてからは、お互い「いい関係でいたい」という強い気持ちが一致して、尊重し合えたのが良かったと思うんです。その姿を見て組のメンバーも安心してくれましたし、若い彼女がトップになったということで、自分で役に立つことがあれば彼女のためにも月組のためにもやっていきたいと思いました。

 彼女がトップお披露目公演初日に初めて羽根を背負って大階段を降りてくるのを下で迎えたときは、本当に嬉しくて、胸がいっぱいになりました。幸せだなと思うことが多かったですね。彼女だから残れたというのもあるかもしれないです。

――結果としてそれからは、美弥さんと珠城さんだからできた作品ばかりでしたよね。

 『グランドホテル』『All for One』そして『BADDY』など、作品には恵まれました。それは彼女が引き寄せてくれたものだと思いますが、そこでいつもやりがいのある役をいただけたので、本当に感謝しています。

「トップスター」という目標は…

――「美弥さんにトップスターになって欲しい。羽根を背負った姿を見たい」という方もたくさんいらしたと思うのですが?

 そのお気持ちはとても感じていましたし、本当にありがたいと思っていました。でも、何て言ったらいいんでしょう、言葉を選ぶのが難しいのですが…いい役に恵まれる中で「私はそもそも男役がしたくてタカラヅカに入ったわけで、それとトップになることと何か関係があるのかな」と思うようになったんです。

 それに「まだまだ色々やりたい」という状態で辞めたかった。その方が、次の人生でエンジンが熱くかかるんじゃないかな、と。ここで消耗しきってしまうことを自分は望んでいない、そういう感じもありました。

 皆さんのためにも「やりたい」と思うべきだと考えた時期も正直ありました。でも、それが本心かどうかずっと悩み続けていました。

 自分の学年はどんどん上がっていき、傍では珠城りょうちゃんが日々体力を消耗し精神を削りながら必死で舞台を務めている。その姿を見ながら、「本当の自分の気持ちはどうなの?」と何回も自分に質問しましたね。

 「トップになりたいと思わなきゃダメだ」と思った時期もありましたが、それはもしかすると、自分に思わせていたという感じだったのかも知れません。応援してくださる皆さんのお気持ちは本当にすごく嬉しかったです。でも、今はこれで良かったと思っています。

2020.03.03(火)
Text=Chiaki Nakamoto
Photographs=MARCO
Styling=Marie Higuchi
Hair & Make-up=Hitomi Matsuno
Prop styling=Ai Ozaki