この街で出会う美術品は個性派揃い。「これは!?」と気になる作品の前で立ち止まってみたい。

 謎が解ければ、遠い昔からアーティストたちに霊感を与え続けてきた、古代神話や聖書の奥深い世界がぐっと身近なものに見えてくるだろう。

 ナポリ美術の謎を紐解く、第3回目のテーマは「バロックの不思議」。国立サン・マルティーノ美術館と、ブルボン王朝の栄華の歴史を物語る王宮の芸術品を見ていこう。

>> 第1回 古代の秘密
>> 第2回 ルネッサンスの謎

 現実にはありえない場面なのに、なぜこうも生々しいのだろう? 人間味溢れる神話の英雄や圧倒的な存在感を放つ聖書のヒロインたち。バロック美術は光と闇の対比のなかに強烈な現実感を追究した。

由緒正しい修道院の雰囲気を伝える美術館

ナポリの守護聖人、聖ジェンナーロに捧げられた礼拝堂。聖人の生涯が描かれた華やかな空間

 ナポリ市街を一望するヴォメロの丘に立つ国立サン・マルティーノ美術館は、14世紀にカラブリア公カルロによって建設された修道院を前身とする。ナポリ・アンジュー王朝と縁の深かったこの修道院は、その後16~17世紀に改築され、19世紀以降は一般に公開されている。

修道院付属聖堂の内部。ランフランコが描いた《栄光のキリスト》など、数々の名画で飾られている

 見どころのひとつは修道院付属聖堂だ。大小さまざまな礼拝堂は、ジュゼペ・デ・リベラやルカ・ジョルダーノら、ナポリ・バロックを代表する画家たちの作品の宝庫である。壁や床はナポリで盛んだった色大理石のモザイクで飾られており、素晴らしい豪華さだ。

クチニエッロのプレセピオ
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 聖堂の裏手には17世紀の大列柱廊がある。端正なアーチの続く回廊は、修道士たちが行きかっていた時代の静謐な雰囲気を今に伝える。

 またこの美術館には、19世紀の劇作家ミケーレ・クチニエッロが寄贈したプレセピオのコレクションがある。プレセピオとは、キリスト降誕を再現したクリスマス飾りのこと。聖書の登場人物に加えて、居酒屋の店先や商人たちの姿まで表した巨大なジオラマは、活気溢れるナポリの街そのものだ。

空から舞い降りる天使、描いたのは何の場面?
《クチニエッロのプレセピオ》 18世紀

ナポリのクリスマスに欠かせないものといえば、キリスト誕生の場面を再現したプレセピオ。空からは天使たちが舞い降り、地上には3人の博士たちをはじめ、救世主の降誕を祝う人々が詰めかける。これほど大規模なものは珍しい。

国立サン・マルティーノ美術館
Museo Nazionale di San Martino

住所 Piazzale San Martino 5, Napoli
電話番号 +39-081-558-6408
開館時間 8:30~19:30(切符売り場~18時30分)
定休日 水曜
入場料 6ユーロ

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photo:Kinta Kimura
supervision:Michiaki Koshikawa
text:Akiko Kobayashi / Makiko Kawai