この街で出会う美術品は個性派揃い。「これは!?」と気になる作品の前で立ち止まってみたい。
謎が解ければ、遠い昔からアーティストたちに霊感を与え続けてきた、古代神話や聖書の奥深い世界がぐっと身近なものに見えてくるだろう。
ナポリ美術の謎を紐解く、第2回目のテーマは「ルネッサンスの謎」。15世紀初頭に創建した教会と、国立カポディモンテ美術館に残された芸術作品から、ルネッサンス美術の謎を追う。
>> 第1回 古代の秘密
>> 第3回 バロックの不思議
ナポリでは、美術館や市内の教会で珠玉のルネッサンス美術を見ることができる。フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアなど、さまざまな出自の芸術家たちの作品がこの街に残されたのは、ナポリ王国の独特な歴史の結果だ。
アラゴン王家ゆかりのフィレンツェ風礼拝堂
ルネッサンス時代のナポリは、他国の王たちの熾烈な領土争いの舞台だった。ナポリに残る美術作品は、そうした複雑な歴史の証人でもあるのだ。
15世紀中頃、スペインのアラゴン家は、中世のあいだナポリを支配していたフランスのアンジュー家を破り、ナポリを領有した。その後もナポリをめぐるスペインとフランスの争いは続くが、16世紀以降、スペイン王家を実質的な支配者とする時代が19世紀まで続くことになる。
右:木彫像が設置される壁面には、風景や見せかけの戸棚を表した見事な木製象嵌細工がある
ナポリのアラゴン家は、15世紀末に一時的にメディチ家の当主ロレンツォ・イル・マニーフィコと同盟関係を結んだため、フィレンツェのルネッサンス芸術がナポリにもたらされることになった。その代表例が残されているのが、サンタンナ・デイ・ロンバルディ聖堂である。
旧市街地の西に位置するこの教会は、15世紀初頭の創建当時からアラゴン家のバックアップを受けていた。堂内に入りすぐ左にあるピッコローミニ礼拝堂には、ナポリ王フェルディナンド1世の私生児マリア・ダラゴーナ(アラゴン家のマリア)の墓碑がある。フィレンツェの芸術家たちによって、洗練されたルネッサンス様式で装飾されたこの礼拝堂では、現代の市街の喧噪とは隔絶された清澄な空間をいまなお体験することができる。
photo:Kinta Kimura
supervision:Michiaki Koshikawa
text:Maria Fukada / Maho Tomooka