この街で出会う美術品は個性派揃い。「これは!?」と気になる作品の前で立ち止まってみたい。

 謎が解ければ、遠い昔からアーティストたちに霊感を与え続けてきた、古代神話や聖書の奥深い世界がぐっと身近なものに見えてくるだろう。

 ナポリ美術の謎を紐解く、第2回目のテーマは「ルネッサンスの謎」。15世紀初頭に創建した教会と、国立カポディモンテ美術館に残された芸術作品から、ルネッサンス美術の謎を追う。

>> 第1回 古代の秘密
>> 第3回 バロックの不思議

 ナポリでは、美術館や市内の教会で珠玉のルネッサンス美術を見ることができる。フィレンツェ、ローマ、ヴェネツィアなど、さまざまな出自の芸術家たちの作品がこの街に残されたのは、ナポリ王国の独特な歴史の結果だ。

アラゴン王家ゆかりのフィレンツェ風礼拝堂

聖堂奥にある旧聖具室の装飾も見逃せない。天井画は、『ルネッサンス芸術家列伝』を執筆したことで知られるジョルジョ・ヴァザーリによって、1544年に制作された。さまざまな美徳の擬人像のまわりは、古代の装飾を模した幻想的なグロテスク装飾で華麗に彩られている

 ルネッサンス時代のナポリは、他国の王たちの熾烈な領土争いの舞台だった。ナポリに残る美術作品は、そうした複雑な歴史の証人でもあるのだ。

 15世紀中頃、スペインのアラゴン家は、中世のあいだナポリを支配していたフランスのアンジュー家を破り、ナポリを領有した。その後もナポリをめぐるスペインとフランスの争いは続くが、16世紀以降、スペイン王家を実質的な支配者とする時代が19世紀まで続くことになる。

左:マリア・ダラゴーナはアマルフィ公爵アントニオ・ピッコローミニの妻となったため、この礼拝堂に埋葬された。装飾は1475~90年頃。正面には、アントニオ・ロッセリーノによる《キリスト降誕》を表した浮き彫りがある
右:木彫像が設置される壁面には、風景や見せかけの戸棚を表した見事な木製象嵌細工がある

 ナポリのアラゴン家は、15世紀末に一時的にメディチ家の当主ロレンツォ・イル・マニーフィコと同盟関係を結んだため、フィレンツェのルネッサンス芸術がナポリにもたらされることになった。その代表例が残されているのが、サンタンナ・デイ・ロンバルディ聖堂である。

 旧市街地の西に位置するこの教会は、15世紀初頭の創建当時からアラゴン家のバックアップを受けていた。堂内に入りすぐ左にあるピッコローミニ礼拝堂には、ナポリ王フェルディナンド1世の私生児マリア・ダラゴーナ(アラゴン家のマリア)の墓碑がある。フィレンツェの芸術家たちによって、洗練されたルネッサンス様式で装飾されたこの礼拝堂では、現代の市街の喧噪とは隔絶された清澄な空間をいまなお体験することができる。

マリア・ダラゴーナの墓碑(左側壁面)はベネデット・ダ・マイアーノによるもので、デザイン全体はフィレンツェのサン・ミニアート・アル・モンテ聖堂にある有名な礼拝堂を模している

サンタンナ・デイ・ロンバルディ聖堂 (サンタ・マリア・ディ・モンテオリヴェート教会)
Sant’Anna dei Lombardi (Santa Maria di Monteoliveto)

住所 Piazza Monteoliveto 4, Napoli
電話番号 +39-081-551-3333
開館時間 8:30~12:00
8:30~12:00、17:00~19:00(土曜のみ)
定休日 日曜
拝観料 無料

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photo:Kinta Kimura
supervision:Michiaki Koshikawa
text:Maria Fukada / Maho Tomooka