ファルネーゼ一族の権力を描き出した肖像画
何かキナ臭い華麗なる一族の秘密は?
《パウルス3世とその孫たち》 ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 1546年
祖父と2人の孫を描いた肖像画だが、どこか不穏な雰囲気を感じさせる。へつらうように歩み寄るオッタヴィオに対して老教皇は疑り深い視線を投げかけ、奥のアレッサンドロ枢機卿は冷やかにこちらを見遣っている。画家は、権力をめぐる三人三様の思惑を見抜いていたかのようだ。ちなみに2人の孫の父親はこの絵が描かれた翌年に暗殺された。
国立カポディモンテ美術館にあるルネッサンスの傑作の数々も、多くはファルネーゼ家のコレクションに由来している。そこには、この名門一族の人々が、ヴェネツィア派のティツィアーノら当時の一流芸術家たちに直接注文して描かせた作品も少なくない。
ファルネーゼ一族の栄華の基礎を築いたのは、1534年にローマ教皇の座についたパウルス3世。彼がティツィアーノに描かせた肖像画(写真上)の中央に座る老人である。教皇は一族の勢力を盤石にするべく、一緒に描かれている孫たちを高い地位につけるために露骨に画策した。左側のアレッサンドロは枢機卿として権勢を誇り、右側のオッタヴィオはやがてパルマ公爵となる。3人を描いた絵は、いわばファルネーゼ家の「権力の肖像」なのだ。
パウルス3世はミケランジェロのパトロンでもあり、ヴァティカン宮殿に大壁画《最後の審判》を描かせた。さらに、自分の名前を冠したパオリーナ礼拝堂の壁画制作を続けて依頼する。選ばれた主題は《パウロの改宗》と《ペテロの磔刑》。高齢の教皇は、首を長くしてこの壁画の完成を待ち、幾度も制作現場を訪れたという。
《兵士の一群》 ミケランジェロ 1545~46年頃
パオリーナ礼拝堂のフレスコ画《ペテロの磔刑》の左隅に描かれる兵士たちのための原寸大下絵。9枚の紙を貼り合わせており、これで図柄を壁に転写した。英国にある別の作例と合わせて、ミケランジェロの原寸大下絵は世界に2点しか残っていない。
国立カポディモンテ美術館
Museo e Gallerie Nazionali di Capodimonte
住所 Parco di Capodimonte Via Miano 2, Napoli
電話番号 +39-081-749-9111
開館時間 8:30~19:30
定休日 水曜、1月1日
入館料 7.50ユーロ(14:00~17:00の入館は6.50ユーロ)
photo:Kinta Kimura
supervision:Michiaki Koshikawa
text:Maria Fukada / Maho Tomooka