異文化融合で栄えたシチリアと
和を尊ぶ日本の出会い
続くアンティパストは、モザイク状に仕立てた3種のメロンにセッピア(イカ)とマグロのボッタルガ、手搾り柚子で。プリッと歯ごたえの残るイカにボッタルガの旨味と塩気、柚子の酸味とかすかな苦味、そしてメロンの爽やかな甘さ。素材の持ち味を生かしながら、ひと口で5つの味覚をカバーするシンプルで粋なひと皿でした。
プリモ・ピアットは、パラッツォーロ・アクレイデ産の黒トリュフとマザラ・デル・ヴァッロ産の赤海老のラビオリ。もう、この字面を見るだけでも十分美味しいと予想がたちますが、期待を上方向に裏切られました。
その秘密は、お出汁。フレッシュ黒トリュフのシャクシャク感に手打ちパスタのモチッと感を、まろやかなエビの旨味が包み込み……さらにそれらを出汁スープが包み込み……、口の中は、グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸の競演です。「Umami!」(イタリア語風にはウマーミと発音)と発するイタリア人のため息が、「うまーい」と聞こえたような気がしないでもありません。
素材の美味しさの「その先にある旨さ」を知ってしまったこの人たちは、この先どうするのだろう? と余計なお世話な心配がよぎるなか、セコンド・ピアットが登場。ミリンと出汁で甘く煮染めた赤タマネギといただくトロの炙りを、柚子胡椒がキリリと引き締めます。
シチリアの定番料理のひとつ「Tunnina ca' cipuddata(甘酸っぱいタマネギを添えたマグロの炙り)」の、馴染みある味を非日常に変えるのではなく、クラスアップする出汁と柚子胡椒。静かに力を発揮する和素材の振る舞いは、和をもって貴しとなす……まったく聖徳太子的でありました。
ところで、シチリア料理には、イタリア料理には珍しく料理に砂糖を使った「アグロドルチェ(甘酸っぱい)」な味わいがあります。伝統的に魚介に親しみ、トロも愛でるシチリアの人々は、どこか日本人と似ているのかもしれません。新しい味覚を解するには、やはりある程度の経験が必要なもの。そして、異文化をリスペクトするオープンなマインドも必要だと実感しました。
東西文化の交流地点として栄え、アラブ・ノルマンの異文化融合を果たしたシチリア王国の奇跡、“12世紀ルネッサンス“から約800年。21世紀のパレルモでシチリア王国の子孫たちは、この味覚の異文化を心底楽しんだ様子でした。
……それにしても、今回はイベントを成功に導いたプロの仕事にも感動しました。シェフたちの技術と経験に裏付けされた現場力、並々ならぬ探究心と創造力、そしてそれを支えるスタッフたち。そもそも日本料理ではなく、イタリア料理のシェフを日本から逆輸入するイベント自体が画期的でした。それは、日本のイタリア料理のレベルの高さをイタリア人も認めているからこそ。
今回、シチリアで活躍された樋口シェフと永島シェフの料理、機会があればぜひ日本で味わってみたいもの。また、シチリア料理をテーマにしたイベントもときどき開催しているそうですので、ぜひ!
Bye Bye Blues
(バイ・バイ・ブルース)
所在地 Via del Garofalo, 23, Palermo
電話番号 091-684-1415
http://www.byebyeblues.it/
Sesto Canto
(セストカント)
所在地 Via Sant'Oliva, 26, Palermo
電話番号 091-324-543
http://www.ilsestocanto.it/ita_sestocanto/home/
L'otto cento
(ロットチェント)
所在地 東京都中央区日本橋小網町11-9
電話番号 03-6231-0831
http://www.lottocento.tokyo/
Salone 2007
(サローネ・ドゥエミレセッテ)
所在地 横浜市中区山下町36−1
電話番号 045-651−0113
http://www.salone2007.com/
コパン・ドゥ・フロマージュ
所在地 和歌山県紀の川市桃山町調月769-136
電話番号 0736-60-7175
http://www.copain-f.com/
岩田デノーラ砂和子
2001年よりイタリア在住のライター/コーディネーター/通訳。現在はシチリア州パレルモ在住。イタリア専門コーディネートチーム「Buonprogetto.com」を主宰するほか、個人旅行者向けイタリア旅行サイト「La Vacanza Italiana」を運営。イケメン犬ボン先輩とヤラカシ系イタリア人の夫との日々を綴るBLOG「ボン先輩は今日もご機嫌」が、ただ今人気急上昇中!
文・撮影=岩田デノーラ砂和子