Magnificent View #1279
タイダルベイスン(アメリカ)

(C)Larry Fisher / Masterfile / amanaimages

 ワシントンD.C.で春になると華やぐ場所といえば、ポトマック川に隣接する入江、タイダルベイスンだ。ここに咲き乱れる桜は、この季節の風物詩となっている。

 1884年、殺風景だったこの地に桜を植えようと提案したのは、ワシントン在住の女性ジャーナリスト、エリザ・シドモア。外交官だった兄を訪ねて来日した彼女は、隅田川の桜並木の美しさに感動。30年近くもアメリカ政府に桜の植樹を陳情し続けたという。

 その活動を後押ししたのが、第27代大統領、ウィリアム・タフト夫人のヘレン・タフトだ。彼女は桜の苗木の購入を先導。タイダルベイスンに桜並木を造る計画は、一気に実現へと向かった。

 ついに1909年、日本から2000本の桜がワシントンへと送られた。だが、到着した桜は病害虫に侵されており、すべてが焼却処分に。以降、健康な苗木を育て、アメリカ国内の輸送は冷蔵貨車を使うなど、病害虫に侵されないよう綿密な搬送計画が立てられ、3年後、3020本の桜がふたたびワシントンへと届けらた。

 現在、ここに見事な桜並木があるのは、エリザの熱い思いがあってこそ。横浜外国人墓地にある彼女の墓碑の傍らには、1991年にポトマック河畔から里帰りした桜が植えられている。

Column

今日の絶景

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2017.04.02(日)
文=芹澤和美