一通の匿名の脅迫文が、積み上げてきたキャリアと会社組織を少しずつ崩していく。10月13日スタートのNHKドラマ10『会社員』で吉田羊さんが演じるのは、宮木英理子。大手企業KZGCでコーポレートデザイン本部長を務め、取締役への昇進を目前にした50歳です。勤め人の経験はない、と吉田さんは言います。そこからどう役を立ち上げたのか。前篇では、作品と役について聞きました。


役作りはまず、ビジネス用語を調べるところから

――NHKの脚本開発チーム「WDR」から生まれた第二弾です。お話が来たときは、どんなお気持ちでしたか。

吉田羊(以下、吉田) 前作の『3000万』の大ファンだったものですから、やはり少なからずプレッシャーもありました。けれども、その不安を大いに凌駕する、本当に夢中になって読んでしまう素晴らしい脚本が毎話上がってきて。ぜひこの作品に携わらせていただきたいな、ということでお引き受けしました。

――会社勤めのご経験がないところから、どう役を作っていかれたのでしょうか。

吉田 まず、ビジネス用語を調べるところから入りました。台本を読みながら、知らないアルファベット三文字がたくさん出てくるわけです。調べて、ああ、こんなことを言うのかとわかったものと、調べても出てこないものがあって。それはドラマ的に創作した単語だったりして、本当にスタートラインに立つところから始めました。

――株価もチェックされていたそうですね。

吉田 会社員で、しかもこういう責任のある立場にいる人なら必ずチェックするだろうなと思いまして。ランダムに気になる株に当てをつけて、毎日どういうふうに変遷しているのかを見ていました。本当に面白いぐらい、企業関連のニュースが出た時に株価って落ちるんだなと思いました。

――ご自身でもやってみたいと思われましたか。

吉田 思いません。私はそこまで踏み込めない。もしこのドラマの世界が本当に現実だとしたら、よもや私には渡り歩けそうもない世界だなという思いもありました。

――英理子を、どんな人物として捉えていらっしゃいますか。

吉田 彼女は、判断基準を会社の利益に置いているため、会社員として当然の務めを果たしているという自負があります。ハラスメントに関しては、自身も同じような経験をして来たせいで、この世代特有の認識の甘さが見て取れる。一般的に存在意義は大切ですが、彼女の場合、それが厄介でもありますよね。彼女は会社からの評価が自己評価に直結しているので、目の前ににんじんをぶら下げられたり、暗に圧力をかけられたりすると黒を白にしてしまう。しかも、会社のためにそうするしかなかったという大義名分が彼女の中で成立しているから、どこか罪悪感が欠如しているんです。それでも良心はある。だからこそ迷う。人としての倫理にギリギリ肩を掴まれながら会社に尽くしもがく彼女を不憫に思いながらも、非常に人間臭く、その弱さはむしろ魅力的だとも感じています。

――部下への振る舞いや、コンプライアンス室に勤める夫とのやりとりには、傍から見ると厳しいものもあります。

吉田 自分に厳しく、結果を出して来たからこそ他人にもそれを求めてしまうのでしょうね。英理子の言動には、残念ながらハラスメント一歩手前の危うさがあるなと感じますし、若干計算している部分も。ただ、本人なりの自信と正義がありますから、そこはブレずに演じながら、視ている方に、どう見えるかの判断は委ねたいと思います。回を追うごとに、全国に英理子の味方が果たして増えていくのか、怖いですね。

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