生死を分ける “防御姿勢”

「とにかく顔と首を守ることです。目は治せませんし、顔には重要な神経がたくさん通っています。首はやはり頸動脈をやられると生命に関わるので」

 顔と首を守るために中永が推奨するのが、上図の防御姿勢「ダンゴムシ・ポーズ」である。

「首の後ろに両手を組んで、うつ伏せになったり体を丸めたりして、顔を地面に伏せることで、顔と首を守る姿勢ですね。クマは人間を食べるために近づいてくるわけではないので、しばらく攻撃すると立ち去ります。実際に私どもが担当した患者さんは、山菜採りの最中にクマに襲われたものの、この防御姿勢をとって重傷の顔面外傷は免れました」

 それでも、顔面・頭部に挫滅創(ざめつそう)(咬(さ)み潰(つ)されたような傷)、鼻骨骨折、右指骨骨折、左(ひだり)橈骨(とうこつ)骨折などの傷を負ったというから、クマによる攻撃がいかに強力なものであるかがわかる。

「クマが立ち去った後で、パニックにならないことが大事です。出血が激しければタオルやシャツで圧迫止血を行うなどの応急処置をする。そして何よりもすぐに救急車を要請することです。重症外傷では、いかに早く本格的な止血術を開始するかが重要で、受傷から1時間が『ゴールデン・アワー』と言われており、これを超えると死亡率は3倍に跳ねあがってしまいます。どんな場合でも携帯電話などの連絡手段を持つことは必須です」

 何よりも大切なことは、と最後に中永はこう付け加えた。

「決して諦めないことです。どんなに重傷に見えても、たとえ鼻がとれてしまったとしても、治療によってかなりの程度まで回復できることがわかっています。だから決して諦めず、パニックにならずに、防御姿勢をとり、まずは生き延びることを考えてください」

羆を撃つ

2026年9月25日
定価 2,200円(税込)
文藝春秋
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