井之脇さん:自主映画の制作で感じたフラストレーションを重ねて

――井之脇さんは、インディーズミュージシャンのカズマを演じました。どのように役柄にアプローチしたのでしょうか?

井之脇 上田さんとも万理華ちゃんとも舞台でご一緒したので、現場で過ごす時間については何も心配がありませんでした。万理華ちゃんも話していたように、上田さんは作品のなかで個人的な思いをずっと書いていらっしゃる。カズマが打ち込んでいるのは音楽ですが、何気ないセリフ一つとっても随所にそれが滲んでいたので、大切にしたかったですね。

 カズマは、バンドのメンバーとうまくいっていない。僕も自主映画を作ったなかで、すごく仲良い友達でも、一緒にものを作るとうまくいかないこともありました。今となっては、そんな楽しさもあったなと思いつつ、彼の葛藤には共感できました。

 でも、知らないところで自分の物語が映画になっていたことを知ったカズマは、わずかにでも誰かに応援される喜びを感じるんじゃないかと思って。“最終的には、映画を観に来たお客さんにもフラストレーションがほどけていく気持ちよさが伝われば”と上田さんとも話しました。そこがアプローチと言えるのかな。

友人を迎え、衣装のTシャツも共作。アイデアが繋がり形になる現場

――作中で井之脇さんは、首元に刺しゅうを施したフォトTシャツを着用しています。エンドロールで、「デザイン:伊藤万理華、スクリーン写真:井之脇海」とクレジットがあるのを見ましたが、あれは?

伊藤 『リプリー』の時に、私のドローイングを上田さんが見ていてくださって、撮影の1週間前に「カズマが着るTシャツをデザインしてほしい」と言われました。

 最初はイラストというオーダーでしたが、“カズマがちゃんと着たいと思って買った、一点ものの、古着のTシャツ”と考えると、私のドローイングだけでは難しい気がしていました。そんなとき、海くんが写真を撮るのが好きだと言っていたことを思い出して。Tシャツは、“額にスクリーンで写真を投影された人物のフォトT”なのですが、投影したのが、海くんの過去に撮影した写真で、構図には海くんの指も入っています。……これは言葉で説明するのが難しいので、ぜひ本編で見ていただきたいです。

井之脇 企画は万理華ちゃんによるもので、僕はお手伝いさせてもらいました。

伊藤 作中で、Tシャツはふたりで困難を乗り越えるカギとなるモチーフでもあるので、私と海くんのアイデアを取り込みたかったんです。そこに、私の友人であるファッションデザイナーのBEBIちゃんに頼み、刺しゅうを施してもらいました。

――Tシャツは、画面にささやかな華やぎをもたらしていました。伊藤さんは油絵を学び、個展を開催するなど個人の創作活動もされていますが、これまでにも上田さんの作品でデザインやドローイングを担当したことがあったのですか?

井之脇 万理華ちゃんは、『リプリー』のキャストやスタッフのイラストを描いて、Tシャツやポストカードにして配ってくれました。その絵もすごく可愛かったんですよ。

伊藤 私はただ描きたくて描いたのですが、皆さんが喜んでくださって。『リプリー』のときから、アイデアを柔軟に取り入れていく現場の雰囲気があり、海くんも自主的に映画や写真を撮って、たくさんものづくりと向き合ってきた方でした。

 作中で描かれる“仲間ともがきながら何かを生み出す”プロセスをリアルに踏んでいけたからこそ、マドカとカズマが身を置くコミュニティのカルチャーに対してもより理解が深まりました。それは、海くんが一緒だったからこそ、できたことでもあると思います。

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