モバイルアプリで広がる情報アート

イスラム帝国支配時代に造られたモスク部分が残る階下には、日本風庭園のインスタレーションが。

 絵画の始まりは、古代人が洞窟に描いた壁画。それは、情報を伝達する手段のひとつでした。中世時代の絵画は、現世と神の世界とをつなぐ窓。宗教のコンセプトを伝えるものでした。ルネッサンス時代には、現実世界を再現し、語り継ぐ機能が加わりますが、写真の登場でドキュメンタリー性が失われると、絵画は印象派や表現主義、抽象芸術へと発展していきます。

「Ercte」 90×150cm アクリル×アルミニウム×AR プロッター (C)Fabrice de Nola CC-BY-NC-SA

 デ・ノーラ氏が試みる情報と芸術の融合とは、絵画の伝達しうる情報密度の増加。ヨーロッパの伝統的な技術で描いた美しい絵画の奥には、“WEB3.0”時代の発想で構築された情報世界が広がっています。

 情報コードが埋め込まれた作品は、肉眼で得られる情報にプラスして、ネット経由のリアルな情報につながる仕組み。例えば、パレルモの守護聖人サンタ・ロザリアを祀る、聖なる山モンテ・ペッレグリーノを描いた「エルクテ(Ercte)」にスマホをかざせば、パレルモ市内に遺された8体のジェニオ・ディ・パレルモ(古代パレルモの守護神)のマップや、教会付近のストリートビューが現れます。

左・右下:「Nymphaea」 200×130cm 油彩×アクリル×QR キャンバス
右上:緻密に描かれたQRコード。(C)Fabrice de Nola CC-BY-NC-SA

 約100年前にパレルモに嫁いだ女性、オタマ・ラグーザをモチーフにした「ニンファエア(Nymphaea)」の帯にデザインされたQRコードには、かつてこの地で暮したオタマさんの切ない想いが隠されています。

 最古の情報メディア「絵画」と現代の情報伝達技術を組み合わせた「ミラージュ」。QRコードリーダーとレイヤーアプリで、芸術の国イタリアの新しい試みが体感できます。

Mirage Flickering, di Fabrice de Nola (ミラージュ)
URL http://dcmir.wordpress.com/2014/02/05/mirage-flickering/
会期 2014年4月5日~6月25日
※5月19日からは予約のみ
会場 Cappella dell'Incoronazione, Via dell'Incoronazione, 13
電話番号 +39-091-587717
開館時間 10:00~20:00 ※要予約 
定休日 月曜日
料金 6ユーロ(シチリア州立美術館パラッツォ・リーゾ共通券)

岩田デノーラ砂和子
編集ライター・コーディネーター・イタリア語通訳。2001年より、イタリア在住。
お仕事HP:「Buonprogetto」
ブログ
:「ワンコとイタリア暮らし」が人気の「ローマの平日シチリア便り」

 

Column

気になる世界の街角から

世界の12都市から、何が旬で何が起きているかをリポートするこのコーナー。
その街に今すぐ飛んで行きたくなる情報ばかりです!

文・撮影=岩田デノーラ砂和子