パイというと、日本ではアップルパイやチョコパイなどの甘いパイを思い浮かべますが、世界各地には、メインディッシュや軽食になる様々な甘くないパイ、いわば食事パイ、おかずパイがあります。

 私が暮らす神戸の東部に、そんなパイのお店「グランピーキッチン」ができていました。場所は、阪神電車魚崎駅から徒歩1分。取材前に伺いパイを買って食べてみると、どのパイもボリュームたっぷりでリーズナブルな価格、驚きのおいしさ。2019年12月15日オープンと聞くと、コロナ禍だったとはいえ、知らずにいたのが悔しくなる、とてもいいお店です。

 オーナーシェフのリチー・グラエムさんは、南アフリカ・ヨハネスブルグ出身。南アフリカ、ザンビアなどアフリカだけでなく、マレーシア、インドネシア、タイ、シンガポール、香港、そして神戸で30年余り働き、ホテル総料理長も務めてきたのだそう。販売を担当するのは、奥様で日本人のリサさん。普段はテイクアウトだけの小さなお店です。

 赤いテント、赤いドアのお店に入ると、その日焼かれたパイがずらり。冷蔵ケースには見慣れないスイーツが並んでいます。

 まずは、食事パイのいろいろを紹介しましょう。

 取材に伺った時は、丸いパイが4種類。上部分のハートや星のマークで見分けます。どれもずっしりとした重さ。フィリングがたっぷり入っています。

 「ビーフパイ」のフィリングは、牛肉、玉ネギのみじん切りを黒ビールを入れて煮込んだもの。しっかりした味わいに、ゴロゴロ入った角切りのパテがアクセント。

 オーストラリア伝統の「オージーパイ」は、牛肉と豚肉を使い、味付けはケチャップとデミグラスソース。一品料理のような味わいで、外国人客に人気なのだとか。

 「パプリカチキンパイ」の具材は、鶏胸肉、枝豆、トマト、玉ネギ。スモークパプリカがほのかに香り、ワインやビールが進みそう。

 「チキンカリーパイ」は、スパイシーで程良い辛さ。ジャガイモやトマト、玉ネギなどの野菜もたっぷり入っています。

 「丸いパイは、温めて食べるとおいしいですよ」とリサさん。フィリングの味わいがぐんと増して、極上の一品になります。

 丸形だけでなく、様々な形に包んだパイも気になります。片手で持って食べるのにぴったりのものもあって楽しい。

 ホウレン草とモッツァレラチーズの「ポパイパイ」は、優しい味付けでホウレン草の風味が際立ちます。

 「里いもチーズオニオンパイ」は、外国では味わえない里芋を使っているオリジナル。もっちり食感で日本人好み。

 「サーモンパイ」の中身は、サーモンと自家製のスモークマヨネーズを使ったポテトサラダ。スモークの風味が後口に残り、印象的。

 四角く仕上げた「中華パイ」は、胡椒餅をアレンジしたもの。胡椒がきいていて、胡麻油が香ります。「ビールにぴったりですよ」とリサさんはにっこり。

 外国人客に大人気の「ソーセージロール」は、リチーさんが作ったイギリスの伝統的なカンバーランド・ソーセージを、パイ生地で包んで焼いたもの。。太くてボリュームのあるソーセージは、ハーブ風味がポイント。他にはない味です。

 他にも、トウモロコシが入った「テキサスパイ」、キャベツ、ソーセージ入りの「バブルスクィークパイ」と種類豊富で、どれにしようか迷ってしまいます。

 パイは、それぞれ数量限定なので、早々に売り切れてしまう日もあるとか。

 唯一冷蔵ケースに並んでいて、冷たいまま食べるのが「ブリティッシュポークパイ」。イギリスでは「パイの王様」と言われるほど有名なパイで、パイ生地とフィリングの肉との間にゼラチン(アスピック)を流して固めてあるのが特徴。「イギリスの伝統的な作り方で、3日かけて作るんです」と、リチーさん。ぜひ、食べてみたい逸品です。

2024.07.14(日)
文・撮影=そおだよおこ