リバタリアンは「自由原理主義者」のことで、道徳的・政治的価値のなかで自由をもっとも重要だと考える。そのなかできわめて高い論理・数学的知能をもつのがテクノ・リバタリアンで、現代におけるその代表がイーロン・マスクとピーター・ティールだ。

 数学者のデイヴィッド・サンプターは、「成功、幸福、富などを与えてくれる10の数式(ベイズの定理もこのなかに含まれる)」を知る者たちを「TEN」と呼び、その暗号を解き秘密の数式を自在に操ることで世界を支配しているという。※2

 その集団、いうなれば秘密結社は、実は何世紀も前から存在する。その秘密結社のメンバーたちは、代々自分たちの知識を後世に伝えてきた。そんな彼らは行政、金融、学界、そして最近ではテクノロジー企業の世界で実権を握り、一般人に紛れて過ごしつつも、私たちにこっそりと力強い助言を送り、時には私たちを陰で操ってさえいる。一般の人々が心から手に入れたいと望む秘密を見つけ出し、裕福で、満ち足りた、自信満々な人生を送っている。

 TENはデータを数学的にモデル化し、パターンを見つけてシグナル(必要な情報)とノイズ(不要なゴミ)を見分ける特殊な能力をもっている。だがこれは、世界の真実を知っているということではない。重要なのは、平均よりも精度の高い(現実をうまく説明する)モデルをもっていることだ。

 カジノがビッグビジネスになるのは、自分たちが51%の確率で勝ち、客が49%の確率でしか勝てないビジネスモデルを構築したからだ。これなら、巨大な施設をつくって巨額の宣伝費を投じ、多くのギャンブラーを集めることで確実に儲けられる(実際には、カジノの客の勝率はもっと低いだろう)。

 それに対して、ラスベガスとウォール街を攻略した数学者で「最強のハッカー」でもあるエドワード・ソープは、カジノの人気ゲームであるブラックジャックのバグを発見し、「カードカウンティング」によって51%以上の確率で勝てることを数学的に証明した(しかもそれを論文として公開した※3)。その後、マサチューセッツ工科大学(MIT)の学生たちがブラックジャックチームという「秘密結社」をつくり、カードカウンティングによって全米のカジノを荒らしまわり、巨額の富を手にすることになる。※4

2024.04.04(木)