その時点では13時半に連絡が来ると聞いておりましたので、私と編集さんと営業さんは予定通りに書店さんに伺い、挨拶をし、サイン本や色紙を書かせて頂いておりました。

 そして、とうとう電話がかかってきたのです。

 時は13時8分。

 ――事前に聞いていたより幾分早い入電であり、軽快な着信音に一同はパニックになりました。

 サイン本作成真っただ中だった私はうっかり携帯をコートに入れたままそこらへんに放ってしまっておりまして、「あれ? 音はするのに携帯がない!」とおろおろしました。営業さんと編集さんが一斉に周囲を見回し、結局携帯は持ち主よりも先に編集さんによって発掘され、「阿部さんこれ!」と投げるような勢いで渡され、その勢いのまま電話に出ることになったのです。

 余談ですが、私はプロデビューが決まった時の電話も、大学の講義中、しかもうっかり宿題を忘れていたことに気付いて筆箱の陰で必死に内職に励んでいる最中に受ける羽目になったというとんちきエピソードがあります。いや、何をやってんでしょうね。12年経ってんのにまるで成長がない……。

 とにかく、動揺の中で受賞が伝えられ、現実感がない私に代わって編集さんと営業さんが万歳せんばかりの歓声を上げ、全く事情を知らされていなかった書店員さんも(巻き込んでしまって本当に申し訳ない……!)笑顔で拍手をして下さり、というてんやわんやな一幕となりました。

 その後も予定通り挨拶まわりは続行となったわけですが、行く先々であたたかく歓迎をして頂いたり、優しいお言葉をかけて頂いたりする度に、こうした方々の支えによって八咫烏シリーズはここまで来られたんだよなあとしみじみ感じ入りました。

 受賞の報せを受けた時こそてんやわんやの有様でしたが、いつもに輪をかけて日頃の支えを実感する、なんとも感慨深い旅となりました。

吉川英治文庫賞の記者会見を経て地元群馬の紀伊國屋書店前橋店にも伺いました!
吉川英治文庫賞の記者会見を経て地元群馬の紀伊國屋書店前橋店にも伺いました!

©阿部智里
©阿部智里

阿部智里(あべ・ちさと) 1991年群馬県生まれ。2012年早稲田大学文化構想学部在学中、史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞。17年早稲田大学大学院文学研究科修士課程修了。デビュー作から続く著書「八咫烏シリーズ」は累計130万部を越える大ベストセラーに。松崎夏未氏が『烏に単は似合わない』をWEB&アプリ「コミックDAYS」(講談社)ほかで漫画連載。19年『発現』(NHK出版)刊行。「八咫烏シリーズ」最新刊『追憶の烏』発売中。

【公式Twitter】 https://twitter.com/yatagarasu_abc

望月の烏

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

追憶の烏 (文春文庫 あ 65-11)

定価 803円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

烏の緑羽

定価 1,760円(税込)
文藝春秋
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2024.03.26(火)