自分の予想が裏切られることも好きです。「こういうことかな」と仮説を立てて調べて全然違う答えが出てきても「じゃあどういうことなの?」となってまた調べ始める、みたいなことを繰り返しています。結局、歴史を調べるのって推理だなと思います。歴史の面白さは、ミステリーの面白さに通底するのかもしれません。

――確かに今、おうかがいしながら「探偵みたいだな」と思いました。

永井 そうそう。推理が好きなんです。私はロジカルな人間ではないので、感覚的なところで推理するんですけれど。でもたぶん感覚を突き詰めていく時には、何かしらのキーワードが自分の中に羅列されています。だから、パズルみたいな感覚かもしれないです。

 

新聞連載「きらん風月」が完結

――産経新聞に連載されていた「きらん風月」がこの20日に完結したところですね。実在した栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)という戯作者の話で、今年の初めに「作家の読書道」でお話をうかがった時には「今、大阪弁と格闘しています」とおっしゃっていましたよね。

永井 ずっと大阪弁と格闘していました(笑)。新聞連載なので原稿を落とせないという緊迫感から、とにかく情報を多めに集めておこうとしたら、本当にすごい量の情報を集めてしまいました。思った以上に広がる話でした。

 鬼卵が松平定信と会ったという逸話が史料の中にあるんです。「この二人が会って会話が噛み合うのか?」と思って調べていったら、予想以上にいろんなものが見えてきました。

 たとえば当時、武士という地位を捨てても自由になることを選ぶ人がいたらしいと分かったり、そういう生き方を選びたくなる何かが武家の社会にあったんだという確証を得たりして。これから、これを単行本にまとめるために改稿を頑張らないといけないところです。

――その前に、当分は直木賞受賞記念エッセイなど、受賞関連のお仕事に追われるのでは……。

永井 私、受賞したらどうなるかというシミュレーションをしていなかったんです。あまり考えると取り越し苦労になるので、それよりも、選ばれなかった時に心を立て直す方法をいろいろ考えて、芝居を観に行く予定や、おいしいものを食べに行く予定をいっぱい立ててしまったんです。それが今、自分の首を絞めることに(笑)。

2023.08.02(水)
文=瀧井朝世