越中とやまの「食」を巡る

 寒くなると、富山はおいしくなる。寒ブリ、ズワイガニ、かぶら寿し。でも、今はまだ秋。冬の到来を待ちきれなくなった女性二人組は東京を発って、ひと足早く富山へと向かった。そこで出会った富山ならではの「自然の恵み」と「大地の実り」。越中とやまの食ロードを辿る旅が始まる。

» 2015年春、北陸新幹線開業富山を味わう、富山に酔う
» [握(にぎる)] 天然の生け簀富山湾から届く極上のネタを堪能
» [〆(しめる)] 昆布で〆る。北前船が運んできた「食」文化
» [栽(うえる)] 庄川が育む大地の実りが砺波平野を彩る
» [和(あえる)] 砺波のソウルフード。ご飯がすすむ「よごし」の素朴さ
» [漬(つける)] 南砺で見直した麹のチカラ。伝統の発酵食で身体をリセット
» まだまだあります。とやまの「食」

今回のテーマは「獲(とる)」

毎年11月下旬には「ひみ寒ぶり宣言」が出され、いよいよシーズン解禁となる。最盛期には脂がのった寒ブリが市場一面に並べられるという。(写真提供・氷見市観光協会)
競りの開始は午前6時から。まだ暗いなか、獲ってきた魚を仕分けする作業にも熱がこもる。プラスチックのケースにはあふれんばかりにフクラギが積まれている

 早朝5時半、夜明け前の氷見漁港には、照明を灯した漁船が次々と戻ってきていた。高岡から車で30分。氷見の漁港で待っていてくれたのは、地元で活動する「アートNPOヒミング」情報発信室室長の川向(かわむかい)正明さん。「氷見の寒ブリがおいしい理由を知っていますか? それは、氷見で400年以上前から行われている定置網漁法にあるんですよ」。定置網? 氷見の寒ブリって、大間のマグロみたいに一本釣りじゃないんですか? 「ブリは温暖系の魚で、九州西部の五島列島あたりで産卵するんです。そして春から夏にかけて対馬暖流に乗って日本海を北上、秋まで北海道周辺で捕食して、春の産卵に向けて体に栄養をためていくんです。で、冬になって水温が下がってくると、また南下し始めます。その途中、佐渡島のあたりで海が荒れると、富山湾の奥深くまで避難してくる。それを定置網で捕らえるんです」。能登半島を南下して、島根沖から九州に近づくにつれて、産卵の準備のため体から脂が抜けていくのだそうだが、富山湾に入ってくるブリはまだピチピチ。数キロにも及ぶ大きな定置網に入り込んだブリは、船に揚げられる直前まで気づかずにのんびり泳ぎまわっているという。「ブリを船に揚げたら、一気に水氷に浸けて仮死状態にする。これを『沖じめ』というんですが、このやり方が『ひみ寒ぶり』の鮮度と旨みの秘密なんですよ」。12月に入って、海が荒れ、「鰤(ぶり)起こし」とよばれる雷鳴が轟くと、いよいよ寒ブリの季節到来だそうだ。残念、まだ早かった。「いまはフクラギの最盛期。ブリの小さいやつ、ハマチですね。ブリよりもフクラギのほうが好きだという人もいますよ」。

定置網のある風景。湾の対岸の雲間から、立山の峰々が顔をのぞかせる。手前に見えるラインが魚を誘導する垣網。海岸近くにあるのは小型のもので、沖合に出ると数kmにも及ぶ大型定置網が据えられている

 氷見の魚市場は関係者以外立ち入り禁止となっているが、一般のお客さんは市場の2階通路から水揚げ作業や競りの様子を見学できる。帰港した漁船の船倉から次々に魚が運び出され、仕分けが済むと、その場で競りが始まる。独特の掛け声が場内に飛び交い、フォークリフトが行き交う。早朝とは思えない活気だ。上から見ていても、競りにかけられる魚の種類が多いのが見て取れる。

氷見・網元の家「濱元家」。17代目当主の濱元英一さんは富山県定置漁業協会の会長でもある。ブリが描かれた絹欄間が美しい。見学は<ラ・セリオール>へ問い合わせください

「どうしても氷見イコール寒ブリというイメージなんだけど、ほかにも年間を通じて、たくさんおいしい魚が獲れるんだよ。それをぜひ味わってほしいな」と氷見漁港協同組合参事の廣瀬達之さん。わかりました。では早速賞味してみましょう。川向さんに案内されて市場2階にある食堂「海寶(かいほう)」へ。おすすめは漁師料理のカブス汁。獲れたての魚のぶつ切りを鍋でグツグツ煮て、味噌汁に仕立てたものだ。地魚の旨みがぎゅっと詰まっている。

左:<柿太水産>氷見は水産加工品でも有名。脂がのった氷見いわしを秘伝の糠(ぬか)床に漬けこんだ「糠(こんか)いわし」は、チーズを思わせる濃厚な風味。絶品
右:<食彩居酒屋 灘や>キトキトの刺し身とフクラギのたたき。「お客さんから旬の魚は何って聞かれたら、朝獲れたものって答えるんです」と、ご主人の杉木克己さんは笑う

「定置網の場合、中に入った魚の7割は逃げてしまうんですよ。でも、そのことによって漁業資源が枯渇することがない。永続性のある、環境に優しい漁法として、いま世界の注目を集めているんです」。アツアツのカブス汁をいただきながら、川向さんから定置網の話を聞く。海岸線の高台から見ると、定置網は目と鼻の先。その向こうには富山湾を隔てて立山の稜線が浮かび上がっていた。

ラ・セリオール
所在地 氷見市泊1720
電話番号 0766-74-7111

柿太水産
所在地 氷見市北大町3-37
電話番号 0766-74-0025

食彩居酒屋 灘や
所在地 氷見市本町13-10
電話番号 0766-72-0424

志水 隆=写真
編集部=文
関 幸子=プロデュース
富山県・富山市・氷見市・高岡市・砺波市・南砺市=協力