越中とやまの「食」を巡る

 寒くなると、富山はおいしくなる。寒ブリ、ズワイガニ、かぶら寿し。でも、今はまだ秋。冬の到来を待ちきれなくなった女性二人組は東京を発って、ひと足早く富山へと向かった。そこで出会った富山ならではの「自然の恵み」と「大地の実り」。越中とやまの食ロードを辿る旅が始まる。

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今回のテーマは「漬(つける)」

麹で作った甘酒はさば寿しや、かぶら寿しなどを作る際に使われる。ブリの味噌漬けに甘酒を入れると白味噌風になるという

 一日一回、身体に有益な菌を取り入れよう。「菌活」という言葉は、塩麹ブームとともに女性たちの間でポピュラーになった。わたしの相方もそのひとり。その彼女が今回ぜひ寄ってみたいと言っていたのが南砺(なんと)市福光にある「石黒種麹(たねこうじ)店」だ。種麹とは麹を作る素(もと)(麹菌)。種麹店は全国でも10軒ほどしかないのだが、北陸ではこちら1軒だけ。しかも種麹づくりは一子相伝の製法として代々伝えられてきたのだという。恐る恐るお店をのぞいてみると、ご主人の石黒八郎さんが気軽に声をかけてくれた。「時間があるんだったら、上がって甘酒でも飲んでいきなさいよ」。石黒さんのお店では種麹だけでなく、自家製の麹や味噌、甘酒なども販売している。ご主人によると、いまでも富山県内には100軒以上の麹屋さんがあるそうだ。「昭和30年ごろまでは、寒に入ると町中の家が一斉に味噌を仕込んでいましたからね。うちでもずいぶんたくさん麹をつくっていましたよ。いま麹をつくる室は一つですが、そのころまでは三つありました」。

今回は幻に終わった冬の定番・かぶら寿し。海からの恵みと大地からの恵みが、麹のチカラでひとつになるというところが富山らしい
<石黒種麹店>まっ白な麹の花。米の芯まで発酵が行き届いていて、そのままでも食べることができる

 味噌や醤油、酒など、日本人の食文化を語るうえで麹は外すことができない。食物の保存性を高め、風味を良くし、さらには毎日の健康維持や老化防止に役立つ機能性物質まで作り出す。麹はスゴイ! 石黒さんはそう語る。南砺には麹を使った発酵食が多い。塩漬けしておいたカブにブリやサバの身を挟んで麹に漬け込む冬の定番・かぶら寿しは有名だ。先人の「食」の知恵は、伝統としてしっかりと受け継がれているのだ。

「自宅用に作ったものですが……」と、奥さまが甘酒に漬け込んださば寿しやブリの味噌漬けを出してくださった。「これで、かぶら寿しがあればよかったんだけどね」と石黒さんは残念そう。かぶら寿しを漬け込むのは、12月に入ってから。今年の冬、かぶら寿しを食べにもう一度富山に来よう。雪に埋もれた五箇山の合掌造りが目に浮かんできた。

南砺市福光は板画(はんが)家・棟方志功が戦時中疎開していた土地。古い建物が残る落ち着いた通りに「石黒種麹店」があった。建物は江戸中期に建てられたもの

石黒種麹店
所在地 南砺市福光新町54
電話番号 0763-52-0128

志水 隆=写真
編集部=文
関 幸子=プロデュース
富山県・富山市・氷見市・高岡市・砺波市・南砺市=協力