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「かき氷は、暑い夏に食べるからおいしいんでしょ」

 そんな声も聞こえてきそうですが、真のかき氷ツウがこぞって目指すのは、実は、まだ寒い季節のかき氷。

 味わいといい、楽しみ方といい、暑い季節では決して体験することのできない、この季節ならではの魅力がギュギュッと詰まっています。

 寒さが和らぎ、春の足音が聞こえてきたこの季節にこそ、ぜひ、かき氷店へ! 新たなおいしさとの驚きの出合いが待ち受けているはずです。

 今回は、昨年誕生したかき氷の新名所へ――。


仲睦まじくもプロフェッショナルな兄妹が作るかき氷

 2022年6月、東京・東日本橋駅近くにオープンした「DEMEKIN」は、イギリス人の父と日本人の母を持つ、妹の中北レイラさんと兄の中北若葉さんが営むかき氷専門店。かき氷を頭にのせたユーモラスなデメキンの看板が目印です。

 美しく整えられたフォルムと色彩に目を奪われるのは、ブルーベリーとアールグレイのハーモニーにスパイスがアクセントを添える、「紅茶スパイスブルーベリー」。

 コク深い自家製ミルクをしっかりしみこませた氷の上から、生の果実と冷凍の果実を合わせて煮込んだ濃密なブルーベリーペーストをたっぷりと。

 トップをアールグレイのクリームと、アールグレイのクランブル、アーモンドスライス、フレッシュなブルーベリーが彩ります。その味わいは、まるでパフェやアイスクリームを味わうかのように濃厚で、ブルーベリーの深みある果実味とアールグレイの気品高い香りとのマリアージュが華やか。サクサク、ほろりとしたクランブルの食感も楽しめます。

 ところが、これだけで終わらないのが「DEMEKIN」の魅力。食べ進めていると、中から再びブルーベリーペーストやアールグレイのクランブル、フレッシュなブルーベリーが現れ、同時に、シナモンとオレンジの香りが口いっぱいに広がります。

 その正体は、レイラさんも若葉さんもお気に入りというスパイスオレンジピールクッキークリーム! それまでの表情が一気に変わり、まるでイギリス菓子のタルトやトレイベイクをいただくかような、さわやかで温もりのある味わいに。最後まで飽きることなく、満足感あるおいしさが楽しめます。

 「味は、洋風のものが多いですね。たぶん、リンゴとクランブルにちょっとスパイスのニュアンスも加えたお菓子とか、フレッシュな果物を加工したパイとか、子供の頃に母が作ってくれたお菓子の影響が大きいのかも。和風のものは全く食べていなかったですね」と話す、レイラさん。

「味の組み合わせは、『ああ、これが合いそうだな』と食べながら考えて形にしていきます。アールグレイとか、スパイスとか、ゴマとか、いろんな味でクランブルを作るのが好きで、加えるクランブルによって味を変化させるのが気に入っています。食感も味もいろいろなものを入れたいし、いっぱい食べてほしい」。

理想の口当たりと写真映りまで考えて削る

 味だけでなく氷にもこだわりがあり、「ふわふわで全く抵抗感がないかき氷ではなく、十分やわらかいけれど密度がしっかりした氷にしたいんです。削り方も細かいほうかもしれません。そして、せっかくお客様に出すのであれば、削りっぱなしではなくて、崩れないようにちゃんと形を整えてきれいに丸い状態で出したいし、みなさんが撮られる写真もきれいな状態で撮影してほしい。形が整っていなかったり、ソースが垂れていたりするのは嫌なんです」と、レイラさんは語ります。

2023.03.14(火)
文=瀬戸理恵子
撮影=榎本麻美