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猫ブームが生まれた理由

――そういう意味でも、猫と暮らしている方々は、猫という他者である生身の存在によって培われる感覚を大切にしているのかもしれないですね。

 技術社会への無意識での抵抗、本能的な感受性から生まれた猫ブームというところもあるように感じます。もちろんテクノロジーがもたらすさまざまな便利さには感謝していますが、同時に、そこには常に必ず技術が思考にもたらす影響があることにも注意しないといけないのではないかと。そことどう付き合うのか、どう自然の中の生活のリズムを大事にするか、忘れないようにしたいと思います。

 余談ですが、もともと、西欧の自然=ネイチャーと日本の自然はちょっとニュアンスが違うと思うんです。西欧的な技術文明の世界では、ネイチャーとヒューマンが対峙して、ヒューマンがネイチャーをコントロールしようとする構図があります。しかし、日本の場合は、もともと自然(じねん)という仏教用語から来ていますから、ネイチャーとヒューマンのような二元論ではなく、それこそ自然と人間が自ずから一体となっている状態が自然、という感覚が連綿と昔からあるように感じます。諸行無常ですね。

 たとえば、小さい子に自然の絵を描いてごらんと伝えたら、日本人は山があって川が流れ、その中に人も憩いの時を過ごしているような情景を描く子が多いように思います。その傍らにも猫がいれば、さらに自然ですが(笑)。これからも「しぜん」と「じねん」の意味で自然な番組作りができれば、と思います。

 ただかわいい猫の姿に惹きつけられて御覧いただければ、と思いますが、時に野生や自然との付き合い方などまで思いを馳せる方がいらしたら、それも嬉しく思います。肉球の感じであるとかゴロゴロと喉を鳴らす声であるとか、そういう微細なところを活かす映像、何気ない情景の中から想像力が広がる番組作りをしていきたいですね。

ネコメンタリー 猫も、杓子(しゃくし)も。 - NHK

https://www.nhk.jp/p/ts/Z52R515WW1/
空前の猫ブーム、まさに「猫も杓子も」猫という時代に、「もの書く人々」は猫に何を見るのか? 「もの書く人のかたわらにはいつも猫がいた。」

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2023.02.26(日)
文=高本亜紀
撮影=平松市聖